構造設計の実務を担う専門家の視点から、最新の業務報酬基準(告示8号)のポイントと活用方法をまとめました。
1. 業務報酬基準の変遷と「告示8号」制定の背景
現在の基準に至るまで、業務報酬の考え方は時代とともにアップデートされてきました。
- 初期の基準(告示1206号): 1978年(昭和53年)に制定。当時は工事金額から人日を算定していました。
- 面積ベースへの移行(告示15号): 2005年の耐震偽装事件を契機に、2009年に施行。工事金額ではなく「建築物の類型と面積」から作業人時間を算定する方式へ変更されました。
- 告示98号の課題: 2019年に施行されましたが、「戸建て住宅のサンプル不足」「複数難易度の掛け合わせ不可」「複合用途への適用困難」など、実務上の課題(特に小規模面積の業務時間激減など)が残りました。
これらの課題を抜本的に解消するため、2024年に「告示8号」が施行されました。複数難易度係数の掛け合わせが許可されるなど、より実態に即した改定が行われています。
2. 業務報酬算定の基本スキーム
業務報酬基準はあくまで「作業時間に対する基準」であり、報酬金額そのものを強制するものではありません。実際の報酬は、以下の2つの方式のいずれかで算定します。
略算方式の計算式(実務で一般的)
略算表を用いて直接人件費(業務時間)を算出し、一定の係数を用いて経費を計算します。
業務報酬 = 直接人件費 × 2.1 + 特別経費・技術料等経費
- 直接人件費: 建物の用途と規模(延べ面積)に応じた略算表から業務時間(h)を算出。
- 業務日数の算出: 業務時間(h)÷ 8時間
- 係数2.1の意味: 直接経費と間接経費を合わせて「直接人件費 × 1.1」として扱うため、直接人件費自身(1.0)と合算して係数が「2.1」となります。
💡 「技師C」の経験年数の目安
- 一級建築士:資格取得後 3年未満
- 二級建築士:資格取得後 5年以上8年未満
つまり、業務報酬基準の略算表で算出される「標準業務時間」は、「一級建築士を取得して間もない若手技術者(または中堅の二級建築士)」がすべての作業を行った場合をベースライン(換算率1.0)として設定されているということです。
3. 構造設計実務における重要留意点
① 標準業務の「執行率」による調整
略算表の時間は「標準業務をすべて行った場合」のMAXの数値です。実務において請け負わない標準業務がある場合は、適宜略算表の値を減じて算出する必要があります。(例:構造計画説明書、部分詳細図の有無など)
② 標準業務外の「追加加算」
既存建物の評価・調査、施工費用の検討、設計変更に伴う業務などを行う場合は、その業務量に対応した人・時間を別途加算して請求します。
③ 難易度による割増係数の適用ルール
構造設計において、特定の条件を満たす場合は業務時間に難易度係数を乗じることができます。告示8号の最大のメリットとして、異なる観点の難易度係数は掛け合わせることが可能になりました。(※同一観点内での複数該当は掛け合わせ不可)
- 観点1:特殊な形状・特殊な敷地(設計:1.13、監理:1.25)
例:スキップフロア、著しい高低差、軟弱地盤など。 - 観点2:特殊な解析・性能検証・特殊な構造(設計:1.22、監理:1.23)
例:風応答解析、限界耐力計算、FEM解析など。 - 観点3:木造の建築物(設計:1.02、監理:1.16)
例:許容応力度計算を行う木造建築物など。
④ 複合用途建築物の構造業務量算定
上下階で用途が異なる複合用途建築物の場合、新たに設定された「複合化係数 a」を用いてシンプルに算定できるようになりました。(設計の複合化係数:0.91 / 監理の複合化係数:0.89)
EXP.J等で完全に分離されていない場合(CASE 1)の計算式:
業務量 = (用途1の面積に応じた業務量 + 用途2の面積に応じた業務量) × 複合化係数 a
4. 【実践】業務報酬の算定シミュレーション
物流施設(第1類、延べ面積 2,000㎡)を例とした具体的な算定手順です。
- 略算表から時間の抽出: 構造設計420時間 / 構造監理110時間
- 標準業務執行率の適用(仮定:設計80%、監理60%):
設計:420 × 0.80 = 336時間 → 人日数:42日
監理:110 × 0.60 = 66時間 → 人日数:8日 - 最終報酬額の算出(技師C単価 38,400円を使用):
構造設計:38,400円 × 42日 × (2.1 + 0.5) = 4,193,280円
構造監理:38,400円 × 8日 × (2.1 + 0.5) = 798,720円
※特別経費等は「直接人件費 × 0.5」として仮定設定
5. 今後の実務と次回の見直しに向けて
業務報酬基準は5年を目安に定期的な見直しが行われる予定です。より実態に即した適正な業務量へとアップデートしていくためには、今後の国交省等からのアンケート調査に対して、各事務所が日々の業務量データを蓄積し、精度の高い回答データを提供することが重要視されています。
日々のプロジェクトごとの工数管理が、将来の適正な報酬基準作りへと直結します。
構造設計のご相談はアルキテックへ
アルキテック株式会社では、最新の法令や報酬基準を遵守し、
透明性の高い適正なプロセスで質の高い構造設計サービスをご提供しております。
一般的な建物はもちろん、特殊な解析や複雑な複合用途建築物の構造計画など、技術的なお悩みがありましたらお気軽にお声がけください。

-840x348.png)


