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ベトナムの未来を築くサステナブル建築:環境課題への挑戦とCFS工法の可能性

世界の舞台で目覚ましい経済成長を遂げるベトナム。特にホーチミン市をはじめとする都市部では、その活気を象徴するかのように建設ブームが続いています 。次々と姿を現す近代的なビル群は、国の発展と人々の希望を映し出す鏡と言えるでしょう。しかし、この急速な発展は、光が強ければ影が濃くなるように、深刻な環境負荷という側面も同時に生み出しています

都市化の加速がもたらす大気汚染、水質汚濁、そして増え続ける建設廃棄物。これらの課題は、ベトナムが持続可能な社会を築く上で避けては通れない壁となっています 。この大きな転換点において、建築に求められる役割もまた変化しています。単に空間を創るだけでなく、環境と共生し、未来の世代に豊かな社会を引き継ぐためのソリューションが不可欠です。

私たちアルキテックは、建築の構造と環境技術を専門とするエンジニアリング集団として、この重要な課題に真摯に向き合っています 。本稿では、ベトナムの建築業界が直面する環境問題の現状とその背景を深く掘り下げ、持続可能な未来を拓くための具体的な解決策を、最新の技術動向と共に探っていきます。

高度経済成長の光と影:ベトナム建設業界が直面する環境課題

ベトナムの建設市場は、年率8%を超える驚異的なペースで成長を続けており、2028年にはその市場規模が1,000億米ドルを突破すると予測されています 。この力強い成長は、人口増加、所得向上、そして急速な都市化によって支えられており、国内外からの投資を呼び込む大きな魅力となっています 。しかし、その裏側で都市環境は深刻な悲鳴を上げています。

建設ラッシュが加速させる都市環境の変化

ホーチミン市やハノイ市のような大都市では、経済発展のスピードにインフラ整備が追いついていません 。急激な人口集中は、交通渋滞、住宅不足、公共サービスの質の低下といった様々な社会問題を引き起こしています 。特に、環境インフラの整備の遅れは顕著であり、経済成長が環境保護よりも優先されてきた結果、多くの課題が山積する状況となっています。この「システム的な遅延」こそが、ベトナムの都市が抱える環境問題の根源にあると言えるでしょう。

深刻化する3つの環境問題

建設活動の活発化は、特に以下の3つの環境問題を深刻化させています。

1. 大気汚染 都市部における大気汚染の主因の一つが、建設現場から発生する粉塵です 。重機の排気ガスや資材運搬車両の増加も相まって、PM2.5などの有害物質を含む大気汚染が常態化しています。ハノイ市やホーチミン市における粉塵レベルは世界で最も高い水準に達したとの報告もあり、住民の呼吸器系疾患の増加が懸念されています

2. 水質汚濁 都市部の河川や運河の水質汚濁も極めて深刻です。ベトナム全体の汚水処理率は約14%と非常に低く、急増する都市人口から排出される生活排水や工場排水の多くが未処理のまま河川に流れ込んでいます 。建設ラッシュは人口密度をさらに高め、既存の脆弱な下水処理インフラに追い打ちをかけているのが現状です

3. 建設廃棄物問題 経済成長に伴い、建設廃棄物の排出量も爆発的に増加しています。ホーチミン市だけでも1日に数千トンの建設廃棄物が発生しているとされ、その処理が大きな課題です 。問題の核心は、現場での分別がほとんど行われず、コンクリート、金属、木材などが混ざったままの状態で排出される点にあります。その大半はリサイクルされることなく埋立地に送られるか、不法に投棄されており、資源の浪費と環境汚染の両方を引き起こしています

これらの問題は独立しているわけではなく、相互に深く関連し合っています。建設のための資源採掘が土壌を疲弊させ、建設現場が粉塵(大気汚染)と汚染水(水質汚濁)を生み、完成した建物が人口を集中させて水と廃棄物の問題(水質汚濁・廃棄物問題)を悪化させる。この負の連鎖を断ち切るためには、建築のプロセス全体を根本から見直す、包括的なアプローチが求められています。

持続可能性への転換点:ベトナム政府の政策と市場の意識変化

深刻化する環境問題に対し、ベトナム政府と市場も手をこまねいているわけではありません。近年、持続可能な発展への強い意志が示され、具体的な政策や市場の意識変革というかたちで結実し始めています。

法整備の強化と国家戦略

大きな転換点となったのが、2022年1月に施行された改正環境保護法です 。この法律は、環境規制を大幅に強化し、違反に対する明確な罰則を導入した点で画期的です 。特に注目すべきは、「拡大生産者責任(EPR)」の導入です 。これは、製品の生産者や輸入者に対し、その製品が使用後に廃棄される段階まで、リサイクルや処理の責任を負わせる制度です。建設分野においても、建材メーカーや輸入業者は、自社製品の環境負荷に対してこれまで以上の責任を負うことになり、サプライチェーン全体で環境配慮型の製品選択を促す強力なインセンティブとなります。

さらに政府は、「グリーン成長」を国家戦略の柱に据え、環境配慮型の工業団地「エコ・インダストリアル・パーク(EIP)」の設立を推進するなど、国全体で持続可能な社会への移行を加速させています

グリーンビルディング市場の黎明

政府の政策は、市場にも大きな変化をもたらしています。ベトナムにおけるグリーンビルディング(環境配慮型建築)の数は、政府が設定した当初の目標を大幅に上回るペースで増加しており、投資家や消費者の間でもその価値が広く認識され始めています 。2030年までには、新たに数百件のグリーンビルディングプロジェクトが建設されると予測されており、市場はまさに黎明期を迎えています

この動きを支えているのが、ベトナム独自の認証制度「LOTUS」です 。ベトナムグリーンビルディング評議会(VGBC)によって開発されたこの制度は、ベトナムの気候や文化に合わせて設計されており、国際的な認証制度であるLEEDなどと共に、国内の建築物の環境性能を評価する重要な基準となっています

しかし、高い目標と現状の間には、まだ大きな隔たりが存在します。例えば、政府は2025年までに収集された建設廃棄物の60%をリサイクルするという目標を掲げていますが、現場では分別すらほとんど行われていないのが実情です 。この「実行のギャップ」は、裏を返せば、課題を解決できる先進的な技術やシステムを持つ企業にとって、非常に大きな事業機会が眠っていることを意味します。政府の法規制は、単なる制約ではなく、持続可能な技術の価値を高め、新たな市場を創造する原動力となっているのです。

未来への処方箋:CFS建築がベトナムにもたらす変革

ベトナムが抱える複雑な環境課題を解決するためには、従来の発想にとらわれない新しい建築技術が不可欠です。その有力な選択肢として、私たちアルキテックが長年研究開発に携わってきた「CFS(冷間成形薄板形鋼)建築」が大きな可能性を秘めています

CFS(冷間成形薄板形鋼)建築とは

CFS建築とは、厚さ6mm未満の薄い鋼板を冷間で折り曲げ加工し、高い強度を持たせた部材を骨組みとして使用する建築工法です 。木造のツーバイフォー工法を進化させ、枠材をスチールに置き換えたようなイメージで、軽量でありながら極めて高い強度と耐久性を実現します 。北米やオセアニアで普及が進み、日本でも2001年に国土交通省の告示が制定され、一般工法として認められている信頼性の高い技術です

ベトナムの課題に呼応するCFSの優位性

CFS建築の持つ多くの特徴は、ベトナムが直面する環境課題や社会的なニーズに的確に応えることができます。

  • 卓越した環境性能 最大の利点は、その環境負荷の低さです。骨組みとなるスチールは、リサイクル率が90%を超える「リサイクルの優等生」であり、建物の解体後もほぼ全ての部材が新たな鉄製品として生まれ変わります 。これにより、建設廃棄物の最終処分量を劇的に削減し、循環型社会の実現に大きく貢献します。また、部材は工場で精密に生産され、現場での加工が最小限に抑えられるため、現場での廃棄物発生そのものを抑制できるという利点もあります 。
  • 熱帯気候に適した高耐久性と品質 ベトナムのような高温多湿な気候では、木材の腐食やシロアリによる被害が建物の寿命を縮める大きな要因となります 。スチールを主構造とするCFS建築は、こうした生物劣化の心配が全くありません 。さらに、部材には亜鉛めっき処理が施されており、錆に対する高い耐久性も確保されています 。工場での品質管理によって均質な部材が供給されるため、現場作業者の技術力に左右されない、安定した高品質な建物を実現できることも大きな強みです 。
  • 工期短縮と経済性 部材が工場でパネル化され、現場では組み立てる作業が中心となるため、従来の工法に比べて工期を大幅に短縮できます 。これは、旺盛な住宅需要やインフラ整備に迅速に応える必要があるベトナムにおいて、非常に重要なメリットです。また、建物自体が軽量であるため、地盤への負荷が少なく、基礎工事の規模を縮小できるケースもあり、コスト削減と省資源化にも繋がります 。

これらの優位性を分かりやすく比較するために、以下の表にまとめました。

特徴従来のRC造・木造などCFS建築ベトナムの課題への貢献
環境負荷(廃棄物・資源)現場での廃棄物が多く、木材やコンクリートのリサイクル率が低い。現場廃棄物が少なく、スチールはリサイクル率90%以上。建設廃棄物問題の解決と循環型社会の実現に貢献。
耐久性(熱帯気候への適応)シロアリ、腐食、湿気による劣化のリスクが高い。シロアリや腐食の心配がなく、経年変化が少ない。建物の長寿命化による資産価値の維持とメンテナンスコストの削減。
建設スピード現場作業が多く、天候に左右され工期が長くなりがち。工場生産と現場組立により、工期を大幅に短縮可能。急増する住宅・インフラ需要への迅速な対応。
品質管理現場作業者の技術力により、品質にばらつきが生じやすい。工場での精密加工により、常に安定した高品質を確保。建築物の安全性と信頼性の向上。

このように、CFS建築はベトナムの環境、社会、経済の各側面が抱える課題に対し、多角的なソリューションを提供できる、まさに時代が求める工法と言えるでしょう。

ベトナムの今を創る:ガイアフィールドベトナムの取り組み

このCFS建築という先進技術をベトナムで展開しているのが、私たちのパートナー企業である株式会社ガイアフィールドです。アルキテックの取締役である脇田・大沼がガイアフィールドの取締役を兼任しており、両社は緊密な連携のもと、持続可能な建築の普及に取り組んでいます。

日本の技術と品質をベトナムへ

ガイアフィールドは、日本国内でCFS建築のリーディングカンパニーとして数多くの実績を重ねてきました 。その知見と技術をベトナムの発展に役立てるべく、ホーチミン市に現地法人「ガイアフィールドベトナム」を設立しました 。ガイアフィールドベトナムの使命は、日本の高い品質基準と先進技術をそのままベトナムに持ち込むだけでなく、現地の文化や気候、そして人々のニーズを深く理解し、融合させることにあります 。日本の「ものづくりの心」を大切にしながら、ベトナムの風土に根差した建築を創造することを目指しています。

多様なプロジェクトで社会に貢献

ガイアフィールドベトナムの活動は、特定の分野に留まりません。戸建て住宅や集合住宅といった居住空間から、オフィス、店舗などの商業施設、さらには幼稚園や学校といった教育施設まで、社会の基盤となる多様な建築プロジェクトを手掛けています

特に、Binh Dong小学校やIGC Ben Tre小中学校といった教育施設の設計・施工に携わっていることは、彼らの事業が単なる建設活動ではなく、ベトナムの未来を担う子どもたちのための環境づくりという、より大きな社会的意義を持っていることを示しています 。彼らが目指すのは、「ベトナムの都市と自然に溶け込む、緑あふれる癒しの空間」の創造であり、その一つ一つのプロジェクトが、持続可能な社会への貢献に繋がっています

このように、ガイアフィールドベトナムの取り組みは、建築という枠を超え、ベトナムの社会経済の発展そのものに深く関わっています。私たちアルキテックが持つ研究開発力と高度なエンジニアリング技術が、彼らの現場での実践を支え、両社のパートナーシップによって、単なる建設会社ではない、ベトナムの未来を共に築く「国づくりのパートナー」としての役割を果たしているのです

ベトナム建築の明日へ:持続可能な発展の展望と私たちの役割

成長と質の時代へ

ベトナムの建設市場は、2030年、そしてその先も力強い成長を続けることが確実視されています 。しかし、その成長の質は、これまでとは大きく変わっていくでしょう。もはや量を追求するだけの時代は終わりを告げ、環境性能、エネルギー効率、そして長期的な資産価値といった「質」が問われる時代へと移行しています。この大きな潮流は、政府による環境規制の強化という「後押し」と、より良い生活環境を求める市場からの「需要」という、二つの力によって加速されています

私たちの貢献と未来への約束

この新しい時代において、私たちアルキテックとガイアフィールドは、変化に対応するだけでなく、その変化をリードする存在でありたいと考えています。

アルキテックは、構造設計と環境・設備設計を統合し、安全性、快適性、そして持続可能性を高いレベルで両立させるための先進的なエンジニアリングと研究開発力を持っています 。一方、ガイアフィールドは、CFS建築という、まさにベトナムの未来のニーズに応えるための具体的かつ強力なソリューションを提供します

私たちのパートナーシップは、ベトナムの持続可能な発展に貢献するための確かな約束です。急速な成長がもたらす課題に正面から向き合い、技術と知見を結集させることで、経済的な繁栄と豊かな環境が共存する未来を築く一助となること。それが、建築の専門家集団としての私たちの使命です。ベトナムの輝かしい未来の風景を、より安全で、快適で、そして持続可能な建築を通して描いていくことを、私たちは目指し続けます。

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