2008年の初版から17年ぶりの改定となる2025年度版「小規模建築物基礎設計指針」。2025年4月に施行された建築基準法改正(4号特例縮小・ルート1の要件変更)に連動し、実務における適用範囲や設計手法に大きな変化がありました。
実務上の変更点や設計への落とし込みが把握できるよう、構造設計を専門とする構造設計一級建築士の視点から、法改正・技術的変更点をお届けします。
1. 改定の背景と基本方針
「小規模建築物基礎設計指針」は、上位基準である「建築基礎構造設計指針(2019)」の体系に則り、荷重レベルと性能グレードに対する要求性能の確認が明確化されました。また、近年の技術水準や法改正を反映し、過剰設計を防ぎつつトラブルを回避するための「リスクコミュニケーション」の概念が導入された点が最大の特徴です。
2. 適用範囲(小規模建築物の定義)の変更【重要】
建築基準法改正に連動し、小規模建築物の定義が実務に直結する形で大きく見直されました。特に接地圧の上限が新設された点には注意が必要です。
- 建物高さ: 13m以下 → 16m以下に緩和
- 軒高: 9m以下 → 制限を撤廃
- 階数・面積: 地上3階以下、延べ面積500㎡以下(変更なし)
- 【新規】接地圧の目安値上限を新設:
- ・RC造以外のべた基礎:50kN/㎡以下
- ・RC造以外の布基礎:100kN/㎡以下
- ・RC造のべた基礎:80kN/㎡以下(布基礎は100kN/㎡以下)
※上記の目安値を超える接地圧となる場合は、本指針の適用外となり、一般の「建築基礎構造設計指針」による精緻な設計が求められます。
3. 用語および概念の整理
実務上のトラブルや用語の濫用を防ぐため、以下の定義が明確化されました。
① 「地盤補強」から「地盤改良」への名称変更
従来の「地盤補強」という曖昧な表現を廃止し、「小規模建築物のための地盤改良」に統一されました。
【設計上の切り分け】
基礎部材と地盤改良体を「緊結しない」複合地盤として扱うものが本指針の対象です。鋼管杭などを基礎に緊結する形式(杭基礎・パイルドラフト基礎)は本指針の適用外となっています。
② 「主に雨水の浸入に起因する沈下」の明記
近年の事故データから、圧密沈下による事故は減少傾向にある一方で、造成宅地における盛土・埋土の締固め不足や、不飽和土への雨水浸入によるスレーキング・体積収縮による沈下が相対的に増加しています。本改定ではこれを独立した沈下要因として定義し、注意喚起を行っています。
4. 設計方針と要求性能の明確化
常時、レベル1、レベル2の各荷重に対する要求性能が整理されました。
- レベル1荷重(損傷限界状態): 地盤の鉛直荷重が極限鉛直支持力の1.5分の1以下、沈下による変形角が5/1000以下であること。
- レベル2荷重に対する実務的配慮: ルート1等の許容応力度設計が行われている小規模建築物については、便宜上レベル2荷重に対する要求性能を満たすとみなす実務的な緩和措置が取られています。
5. 地盤調査の実務的変更点(SWS試験の扱い)【重要】
JIS改定に伴い、名称が「スウェーデン式サウンディング試験」から「スクリューウエイト貫入試験(SWS試験)」に変更されました。実務上最も注意すべきは換算式の扱いです。
N値換算式の追加と注意点
手動式をベースとした従来の「稲田式」に加え、全自動式SWS試験等に合わせた新しい換算式(大島・深井らの式)が追加されました。
【実務上の厳守事項】
計算結果のN値が大きく出る(危険側となる)数式を意図的に採用するような使い分けは厳禁とされています。調査手法の実態に合わせて適切な式を選択する技術的倫理が求められます。
6. 基礎の計画とリスクコミュニケーションの導入
今回の改定で最も強調されている「ソフト面」の変更事項です。事前調査(地形図やハザードマップ等)の義務化レベルが強調されるとともに、新たに「リスクコミュニケーション」が明記されました。
液状化対策や大規模な地盤改良など、対策費用が過大になる場合、「完璧な対策を行うか、あるいは事後修復を前提としてコストを抑えるか」等の選択肢を建築主に提示し、合意形成を図ることが推奨されています。
構造設計者(実務者)としての総評
本改定は、法改正に伴う「高さ16m以下への緩和」や「接地圧上限の明確化」により、これまで曖昧だった小規模建築物としての適用ボーダーラインが極めてクリアになりました。
実務においては以下の2点がコンプライアンス上の大きな要となります。
- SWS試験のN値換算式の恣意的な選択をしないこと
- 杭頭を基礎に緊結する工法は本指針で逃げず、一般の基礎指針で設計すること
また、液状化判定に伴う過剰設計を回避するため、施主への「事後対策を含めた選択肢の提示(リスクコミュニケーション)」が公式に認められたことは、設計実務において非常に大きな武器となるでしょう。
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