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激甚化する自然災害に備える「レジリエンス」の高い建築・都市計画とは

「もしも」が日常になる時代に、建築ができること

近年、日本の自然災害は明らかにその姿を変えつつあります。かつては「数十年、百年に一度」と言われた規模の豪雨や台風が、毎年のように日本のどこかを襲うようになりました 。2019年の水害被害額は約2兆1,800億円に達し、統計開始以来、津波を除いて最大を記録しました 。また、土砂災害の発生件数も増加傾向にあり、2018年には過去最多の3,459件が発生しています 。  

地震、津波、火山噴火に加え、激甚化・頻発化する気象災害。多様な災害リスクに同時に直面する日本は、まさに「災害大国」と言えます 。このような状況下で、私たちの暮らしと財産を守るためには、これまでの防災の考え方を一歩進める必要があります。  

そこで注目されているのが、「レジリエンス」という概念です。これは単に災害に「耐える」だけでなく、被害を受けても速やかに機能を回復し、しなやかに「立ち直る」力のことです。災害が稀なイベントではなく、事業や生活における予測可能なリスクとなりつつある現代において、レジリエンスへの投資は、単なるコストではなく、資産価値と事業継続性を守るための戦略的な判断となっています。

このページでは、建築と都市という視点から、これからの時代に不可欠な「レジリエンス」とは何か、そしてそれを実現するための具体的な技術や考え方について、建築構造と環境技術の専門家集団であるアルキテックの知見を交えながら、分かりやすく解説します。

レジリエンスとは何か?――「壊れない」から「しなやかに回復する」へ

レジリエンス(Resilience)とは、日本語で「復元力」や「回復力」と訳される言葉です。防災の文脈では、「困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応して生き延びる力」を指します 。頑丈さだけを追求するのではなく、竹が強風でしなっても折れずに元に戻るように、予期せぬ事態に対応できる柔軟性が重視されます。  

この考え方を住まいに当てはめると、災害のサイクル全体を見通した多角的な備えが見えてきます。一般社団法人 日本サステナブル建築協会は、「住まいのレジリエンス度」を測る指標として、以下の3つのフェーズを提唱しています 。  

  1. 平常時の「免疫力」 これは、災害が起きていない日常の暮らしを、安全で快適に、そして環境負荷を少なく過ごすための性能です。例えば、段差のないバリアフリー設計、防犯性の高い設備、そして太陽光発電や高断熱仕様による省エネルギー性能などが含まれます 。日々の暮らしの質を高めることが、いざという時のストレスを軽減する土台となります。  
  2. 災害発生時の「土壇場力」 災害がまさに発生している瞬間に、命と建物を守るための性能です。地震に対する高い耐震性能や、火災の延焼を防ぐ防火性能がこれにあたります 。建物の構造的な強さが、被害を最小限に食い止める第一の砦となります。  
  3. 災害後の「サバイバル力」 これは、レジリエンスの概念において特に重要視される、災害後の生活継続能力です。ライフラインが寸断された後、公的な支援が届くまでの数日間を自立して乗り切るための備えを指します 。具体的には、飲料水の備蓄、非常用電源の確保、安全な避難経路などが挙げられます。  

近年の大規模災害では、避難所のプライバシー問題や衛生環境、ペットとの避難の難しさなどから、避難所へ行かずに自宅での避難(在宅避難)を選択するケースが増えています 。高い「サバイバル力」を持つ住宅は、この「在宅避難」を可能にします。それは単に個人の安心につながるだけでなく、公的な避難所の負担を軽減し、地域全体の災害対応能力を高めるという社会的な意義も持っています。建築設計が、個人の資産を守るだけでなく、公共の安全インフラに貢献する時代が来ているのです。  

個々の建物を強くする――災害別に見るレジリエンス技術

レジリエンスの概念を理解した上で、次に個々の建物を具体的にどう強くしていくのか、災害の種類別に最新の技術と考え方を見ていきましょう。

地震:揺れに「耐える」から「制御し、受け流す」時代へ

地震大国である日本では、建物の地震対策が不可欠です。その技術は大きく3つに分類され、それぞれに特徴があります。

  • 耐震(Taishin) 建物の柱や梁、壁を強化し、建物自体の強度で地震の揺れに「耐える」最も基本的な構造です 。1981年の建築基準法改正以降、すべての新築建物に一定水準の耐震性能が義務付けられていますが、これはあくまで「倒壊を防ぎ、人命を守る」ことを主目的としており、建物自体が損傷を受けることは許容されています 。  
  • 制震(Seishin) 建物内部にダンパーなどの「制震装置」を設置し、地震のエネルギーを熱などに変換して吸収する構造です 。揺れそのものを低減させるため、建物の構造体(柱や梁)へのダメージを抑えることができます 。特に、高層ビルや、本震の後に繰り返し発生する余震に対して効果を発揮します 。  
  • 免震(Menshin) 建物と基礎の間に積層ゴムなどの「免震装置」を設置し、地盤と建物を切り離すことで、地面の揺れを直接建物に伝えないようにする構造です 。3つの構造の中で最も揺れを抑える効果が高く、建物だけでなく、内部の家具の転倒や設備の損傷も大幅に軽減できます 。  
技術仕組みメリットデメリット主な用途
耐震柱・梁・壁などを補強し、建物全体を強固にして揺れに耐える。比較的コストが安く、工期が短い。最も一般的な工法。揺れが直接伝わるため、上階ほど揺れが大きくなる。繰り返しの揺れでダメージが蓄積する可能性がある。戸建住宅、マンション、ビルなど全般
制震建物内に設置したダンパーで地震のエネルギーを吸収し、揺れを低減する。繰り返しの地震に強く、建物の損傷を抑える。風揺れにも効果的。耐震と比べてコストを抑えやすい。地盤の揺れは建物に伝わる。免震ほどの揺れ低減効果はない。高層ビル、タワーマンション、戸建住宅
免震建物と基礎の間に免震装置を入れ、地面の揺れを直接伝えない。建物全体の揺れを大幅に低減。建物や家具の被害を最小限に抑える。コストが高く、工期が長い。設置できる地盤や土地の形状に制約がある。大規模マンション、病院、データセンター

私たちアルキテックでは、この「制震」技術をさらに進化させたソリューションとして**「超耐震パック」**を開発・提供しています 。これは、早稲田大学との共同研究で生まれた高性能な圧縮オイルダンパーと、実際の地震波を用いた高度な「時刻歴応答解析」というシミュレーション技術を組み合わせたものです 。単に装置を取り付けるだけでなく、一棟一棟の設計に合わせて巨大地震時の安全性を科学的に検証することで、お客様に「見える安心」を提供しています。  

水害:浸水を「防ぐ」、そして「受け入れる」設計

近年、ゲリラ豪雨や線状降水帯による都市型水害が深刻化しています。水害へのレジリエンスを高めるには、2つのアプローチがあります。

一つは**「Dry Floodproofing(浸水を防ぐ)」**です。これは、敷地や建物内に水を入れないための対策です。基礎を高くする「嵩上げ」や、出入口の周りの地盤を高くする「マウンドアップ」、そして玄関や窓に設置する着脱式の「止水板」や防水扉などが有効です 。  

しかし、想定を超える規模の洪水では、完全に浸水を防ぐことが難しい場合もあります。そこで重要になるのが、もう一つのアプローチ**「Wet Floodproofing(被害を最小限に)」**です。これは、ある程度の浸水は許容しつつ、被害を最小限に抑え、復旧を迅速にするための設計思想です。具体的には、浸水の可能性がある1階部分には水に強いコンクリート構造を採用し、電気設備やコンセントは高い位置に設置します 。また、浸水後も清掃や乾燥がしやすいように、床下に点検口を設けたり、水に濡れても性能が劣化しにくい断熱材を選んだりすることも含まれます 。  

こうした総合的な水害対策は、建物の構造的な安全性(水圧に耐える設計)と、環境・設備的な配慮(電気系統の配置)が一体となって初めて機能します。アルキテックが構造設計と環境設備設計の両方を社内で一貫して手掛けているのは、まさにこのような複合的な課題に対して、最適なソリューションを統合的に提供するためです 。  

猛暑とエネルギー:自給自足で実現する「暮らしの継続性」

猛暑もまた、現代社会が直面する深刻な気候変動リスクです。レジリエンスの観点では、猛暑対策は「平常時の免疫力」と「災害後のサバイバル力」の両方に関わります。

まず、平常時においては、建物の断熱性と気密性を高めることが基本です 。高性能な断熱材を壁や屋根に施工し、隙間のない高気密な設計にすることで、外の熱気が室内に侵入するのを防ぎます。さらに、窓からの日射熱を防ぐことが極めて重要です。カーテンなどの室内側での対策よりも、庇(ひさし)やオーニング、すだれといった建物の外側で日差しを遮る「日射遮蔽」がはるかに効果的です 。  

こうした高断熱・高気密で日射遮蔽が考慮された住宅は、少ないエネルギーで室内を快適な温度に保つことができます 。これが、災害後の「サバイバル力」に直結します。  

大規模な災害が発生すると、広域的な停電が長期化することがあります。その際、太陽光発電パネルと蓄電池システムを備えた住宅は、エネルギーを自給自足し、最低限の電力を確保することができます 。断熱性能の高い省エネ住宅であれば、蓄えた電力でエアコンを長時間稼働させることも可能になり、停電時でも熱中症のリスクを減らし、安全な在宅避難を支えます 。  

アルキテックの環境設備設計部門では、専門的な環境シミュレーションを用いて、建物の断熱性能や日射取得・遮蔽のバランス、太陽光パネルの最適な設置計画などを設計の初期段階から検証します 。これにより、平常時の快適性と省エネ、そして非常時のエネルギー自立性を両立する、真にレジリエントな住環境を実現します。  

レジリエントな建築の未来を担う「CFS建築」という選択肢

これからのレジリエントな建築を実現する上で、構造そのものの選択も重要になります。木造、鉄骨造、RC造といった伝統的な工法に加え、私たちが特に注目し、リーディングカンパニーとして推進しているのが**「CFS建築」**です 。  

CFSとは「Cold-Formed Steel(冷間成形薄板形鋼)」の略で、厚さ約0.8mm~6.0mmの薄い鋼板を常温で折り曲げ加工して作られた、軽くて強い鋼材を骨組みに用いる建築工法です 。木造の2×4(ツーバイフォー)工法の木材を、高性能な鋼材に置き換えたものとイメージすると分かりやすいでしょう 。  

このCFS建築は、レジリエンスの観点から多くの優れた特性を持っています。

  • 高い構造性能と耐久性 鋼材は木材のように反りや収縮がなく、寸法安定性に優れています。また、シロアリや腐朽の心配がなく、亜鉛めっき処理により高い防錆性能を持つため、長期にわたって建物の性能を維持します 。  
  • 安定した品質 建物の主要な構造部材である壁や床のパネルは、天候に左右されない工場で精密に生産されます 。現場での職人の技術への依存度が低く、常に均質で高い品質を確保できることは、災害時の性能を予測する上で大きな利点です。  
  • 安全性 構造体が不燃材料である鋼材でできているため、火災に強く、延焼リスクを低減できます。これは、地震後に多発する火災への備えとして非常に重要です 。  

CFS建築の強みは、完成した建物だけにとどまりません。その生産プロセス自体が、現代の建設業界が抱える課題に対するレジリエンスを高める可能性を秘めています。日本の建設業界は、熟練技能者の高齢化と人手不足という深刻な問題に直面しています。CFS建築は、工場でのプレファブ化率を高めることで現場作業を大幅に省力化し、工期を短縮します 。これは、労働力不足という社会的な変動に対して、建設プロセス自体の「しなやかさ」を高めることにつながります。  

アルキテックでは、このCFS建築の設計から構造計算ソフトウェアの開発、パネル製造、施工支援までをワンストップで提供しています 。先進的な工法を深く理解し、その普及を担うことで、私たちは建物だけでなく、建築の未来そのものをよりレジリエントなものにしていきたいと考えています。  

都市スケールで考えるレジリエンス――しなやかな社会インフラを目指して

個々の建物のレジリエンスを高めることは非常に重要ですが、それだけでは十分ではありません。一つの頑丈な建物も、周囲のインフラが麻痺してしまえば、その真価を発揮することは難しいでしょう。真の安全・安心は、建物と都市が一体となって初めて実現します。

そこで重要になるのが、都市スケールでのレジリエンス向上策です。

  • グリーンインフラと「スポンジシティ」 これは、自然の力を活用して災害リスクを軽減する考え方です。例えば、透水性の高い舗装材を使ったり、公園や緑地を一時的に雨水を貯留できる構造(遊水地)にしたりすることで、都市全体がスポンジのように水を吸収・保持し、集中豪雨時の下水道への負荷を軽減し、内水氾濫を防ぎます 。  
  • 分散型インフラ 電力や水道、通信といったライフラインが大規模な中央集権型システムに依存していると、一か所の被災が広範囲に影響を及ぼす脆弱性を抱えることになります。これに対し、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた小規模な電力網(マイクログリッド)や、地域内で水を循環利用するシステムなど、インフラを小規模に「分散」させることで、大規模なシステムがダウンしても独立して機能を維持できる、災害に強いネットワークを構築できます 。  

これらの都市スケールの取り組みは、建築、土木、環境、エネルギーといった多様な専門分野の知見を融合させて初めて実現可能です。例えば、グリーンインフラの計画には、水の挙動を理解する環境工学と、建物の基礎に与える影響を評価する構造工学の両方が不可欠です。

アルキテックが構造設計、環境設備設計、そして研究開発(R&D)という複数の専門分野を統合したエンジニアリング集団である理由はここにあります 。私たちは、個々の建物の設計に留まらず、それが立脚する都市環境全体を見据え、より複雑で複合的な課題解決に貢献できるパートナーでありたいと考えています。  

未来の「あたりまえ」を創るために

激甚化する自然災害という避けられない現実を前に、私たちの社会と建築が目指すべきは、単なる「防災」を超えた「レジリエンス」の獲得です。

それは、災害の衝撃を最小限に抑える強靭な構造設計(耐震・制震・免震)、平常時も非常時も快適で安全な暮らしを支える環境設備設計(高断熱・省エネ・創エネ)、そしてCFS建築のような先進的な工法や材料の採用といった、多層的なアプローチによって実現します。さらに、その視点を都市全体へと広げ、しなやかなインフラを構築していく必要があります。

レジリエンスは、一つの特効薬で実現するものではなく、様々な技術と知見を統合した設計思想そのものです。

私たちアルキテック株式会社は、建築構造と環境技術の専門家集団として、また、常に新しい技術を追求する研究開発型企業として、これら全ての要素を統合し、お客様一人ひとりに最適なソリューションを提供する「総合エンジニアリングパートナー」です 。  

安全性、快適性、そして持続可能性を高い次元で両立させること。それが、私たちが考える未来の建築の「あたりまえ」です。その実現を通して、より安全で安心な社会の構築に貢献してまいります。

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