廃棄物削減の真の出発点は、図面の上にある
建設業界が、大量の資源を消費し、廃棄物を生み出しているという事実は、持続可能な社会を目指す上で避けては通れない課題です。しかし、建設現場から出る廃棄物は、単なる「工事の副産物」なのでしょうか。もし、その多くが建設前の「設計」という段階で運命づけられているとしたらどうでしょう。
建設廃棄物削減に向けた最も効果的な一手は、現場での分別徹底やリサイクル技術の向上だけではありません。真の変革は、建物の計画が始まる最初の段階、すなわち設計図が引かれるその瞬間にあります。これからの建築に求められるのは、単に法規制を守るだけでなく、建物のライフサイクル全体を見据え、廃棄物の発生そのものを抑制する設計思想です。
循環型社会の実現は、建物の長寿命化、解体時の再利用・リサイクルを前提とした「解体容易性設計」、そして先進的なデジタル技術の活用という、設計段階からのアプローチによって大きく前進します。私たちアルキテックは、建築環境と建築構造に関する専門家集団として、これらの先進的なソリューションを追求し、持続可能な建築の未来を創造することを使命としています 。本稿では、リサイクル率を向上させ、建設廃棄物を削減するための設計の在り方について、深く掘り下げていきます。
建設廃棄物の現状と循環型社会への道のり
建設廃棄物問題を解決するためには、まずその現状を正確に理解する必要があります。法規制の遵守は基本ですが、それだけでは見えてこない経済的・社会的な圧力こそが、業界全体を次なるステージへと押し上げる原動力となっています。
廃棄物問題の深刻さと法的な枠組み
建設工事から発生する廃棄物は、日本の産業廃棄物全体の排出量の約2割、そして最終処分量においては約4割という大きな割合を占めています 。特に首都圏では最終処分場の残余年数が極めて短く、廃棄物処理は喫緊の課題です 。
この問題に対応するため、2002年に「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)」が完全施行されました 。この法律は、床面積80平方メートル以上の解体工事や500平方メートル以上の新築工事などを対象に、特定建設資材(コンクリート、アスファルト・コンクリート、木材)の分別解体と再資源化を義務付けています 。
この法律のおかげで、アスファルト・コンクリート塊やコンクリート塊のリサイクル率は99%以上という高い水準に達しました 。しかしその一方で、建設発生木材や建設汚泥、そして複数の素材が混ざり合った「建設混合廃棄物」のリサイクル率は依然として低い水準に留まっており、これらが大きな課題として残されています 。
「コンプライアンス遵守」から「価値創造」へ
建設リサイクル法は、廃棄物問題に対する最低限のルールを定めたものです。しかし、真の循環型社会を構築するためには、この「守りの姿勢」から一歩踏み出す必要があります。廃棄物処理コストの高騰や最終処分場の逼迫という現実は、法規制以上に強力な経済的インセンティブとして機能し始めています 。廃棄物を単なるコスト要因として捉えるのではなく、その発生を抑制し、資源として活用することで新たな価値を生み出すという「攻めの姿勢」が、これからの企業には求められます。
この視点の転換は、特にリサイクルが困難とされる「建設混合廃棄物」の問題を解き明かす鍵となります。なぜ混合廃棄物はリサイクルが難しいのでしょうか。それは解体現場で素材を分離するのが困難だからです 。そして、なぜ分離が困難なのかといえば、建設時に強力な接着剤で固定されたり、異なる素材が一体化した部品として設計されたりしているからです。つまり、混合廃棄物の問題は解体時に生まれるのではなく、建物の設計段階で既に作り込まれているのです。この事実は、問題の根本的な解決策が設計プロセスそのものにあることを示唆しています。廃棄物の発生を抑制(Reduce)、再利用(Reuse)、そして資源化(Recycle)するという3Rの原則の中でも、最も優先すべきは「発生抑制(Reduce)」であり、その鍵を握るのが設計者なのです 。
未来のための設計:建物の長寿命化と解体容易性
廃棄物問題への最も根源的な対策は、そもそも廃棄物を「出さない」ことです。それは、建物を長く使い続けること、そして、いつか訪れる解体の時を見据えて設計することから始まります。この二つのアプローチは、建物を使い捨ての消費物から、価値を維持し続ける資産へと変えるための設計思想です。
究極の廃棄物削減策としての「長寿命化建築」
頻繁な建て替えは、それ自体が膨大な量の廃棄物を生み出す原因となります。建物の寿命を延ばすこと、すなわち「長寿命化」は、最も効果的な廃棄物発生抑制策(リデュース)と言えるでしょう 。
建物の長寿命化は、単に頑丈な構造体を作るだけでは実現しません。以下の三つの要素が不可欠です。
- 耐久性の高い構造設計: 地震や風雨といった自然の力に長期間耐えうる、質の高い構造設計が基本です。RC造、鉄骨造、木造、そして先進的なCFS(冷間成形薄板形鋼)建築など、それぞれの構造形式の特性を最大限に活かし、建物の骨格を堅牢に作り上げることが求められます 。
- 変化に対応できる柔軟な空間: 家族構成の変化や事業内容の変更など、時代のニーズに合わせて間取りや用途を容易に変更できる計画は、建物の陳腐化を防ぎます。将来の改修を前提とした構造計画や設備計画が重要です。
- 快適性の持続: 高い断熱性や効率的な空調設備など、長期にわたって快適な室内環境を維持できる設計は、住まい手や利用者に「長く使いたい」と思わせる価値を提供します。これは、建築の環境・設備設計の専門性が活かされる領域です 。
これらの要素を高いレベルで統合することで、建物は世代を超えて受け継がれる資産となり、解体に伴う廃棄物の発生サイクルを大幅に引き延ばすことができるのです。
「解体容易性設計(DfD)」:建物を未来の資源に変える
どれほど長寿命な建物でも、いつかはその役目を終える時が来ます。その「終わり」を設計の初期段階から見据えるのが、「解体容易性設計(Design for Disassembly: DfD)」という考え方です 。これは、建物を構成する部材や部品を、解体時に破壊することなく、きれいに分離・回収できるように設計するアプローチです。
具体的な手法としては、以下のようなものが挙げられます。
- 接合方法の工夫: 接着剤や溶接による恒久的な接合を避け、ボルトやビスなどの機械的な接合を多用する 。
- モジュール化: 部材を標準化された寸法で設計し、交換や再利用を容易にする。
- 素材の単純化: 複合素材の使用を避け、単一素材で構成された部品を優先的に採用する。
このDfDの考え方は、建物の価値観を根底から変える可能性を秘めています。従来、解体とは建物を破壊し、その廃材の処分にコストを支払う「負債」を生み出す行為でした。しかし、DfDによって設計された建物は、その役目を終えた後も、柱や梁、外壁パネルといった部材が価値ある資源として回収できます。これは、建物が解体されるのではなく、「分解」されて未来の建築のための資材を供給する「マテリアルバンク(資材の銀行)」へと変わることを意味します。
このような先進的な設計を実現するには、構造設計と設備設計、そして建築計画が初期段階から緊密に連携する必要があります。例えば、構造体をボルト接合にしても、その周りの設備配管や内装材が複雑に絡み合っていては、きれいな分解は不可能です。構造、設備、意匠の専門家が一体となってプロジェクトを進める統合的な体制こそが、DfDを実用化するための鍵となります。アルキテックが構造設計から環境・設備設計、研究開発までを一体的に提供するエンジニアリングパートナーである理由は、まさにここにあります 。
循環経済の構成要素:戦略的なマテリアル選択
建物を構成する「材料」そのものに着目することも、循環型社会の実現には不可欠です。リサイクルしやすい素材を優先的に選び、革新的な再生材を積極的に活用することで、資源の消費を抑え、廃棄物の流れを価値の連鎖へと転換させることができます。
循環ポテンシャルの高い素材を優先する
すべての建材が等しくリサイクルに適しているわけではありません。設計段階で、将来の再資源化を見据えた素材を選ぶことが重要です。
代表的な例が、鉄やアルミニウムといった金属材料です。これらの素材は、理論上、品質を損なうことなく無限にリサイクルが可能であり、「永遠にリサイクルできる素材」とも言われます 。特に、鉄を主原料とする建築工法は、循環型経済の観点から非常に優れていると言えます。
私たちアルキテックが専門分野の一つとして注力しているCFS(冷間成形薄板形鋼)建築は、その好例です 。CFSは、軽量な鋼材を用いるため輸送時の環境負荷が少なく、工場でのプレカット加工によって現場での端材発生を大幅に抑制できます。そして何よりも、建物の解体後には主要な構造材である鋼材を高い品質でリサイクルすることが可能です。このように、素材の特性を理解し、それを活かした工法を選択することが、設計段階でできる重要な貢献です。
また、木材も適切に管理された森林から産出される再生可能な資源であり、構造材や内装材として再利用(リユース)されたり、チップ化されてボード製品などに再資源化(リサイクル)されたりと、多様な循環の可能性があります 。
再生材・アップサイクル建材という新たな選択肢
近年、技術開発の進展により、これまで廃棄されていたものを原料とする革新的な建材が次々と登場しています。これらを積極的に設計に取り入れることは、廃棄物削減と新たな価値創造に直結します。
具体的には、以下のような多様な選択肢が存在します。
- タイル: ごみ溶融施設で発生する「溶融スラグ」や、廃瓦を原料としたリサイクルタイル 。
- 内装ボード: 廃棄されるコーヒーかすや、衣料品を原料とした繊維ボード 。
- 舗装材: 廃瓦を粉砕して作られた透水性・保水性のある舗装ブロック 。
- 断熱材: 廃ガラスや廃プラスチックを再生利用した高性能な断熱材 。
- コンクリート: 解体コンクリート塊を破砕して作られる再生骨材を使用したコンクリート 。
これらの革新的な建材を適切に評価し、プロジェクトに採用していくためには、建材の性能に関する深い知見が不可欠です。建築の環境・設備設計を担う専門家は、こうした新しい選択肢を常に探求し、性能と環境貢献度の両面から最適な提案を行う役割を担っています 。
さらに未来を見据えれば、建物に使用されたすべての材料の情報をデジタルデータとして記録・保管する「マテリアルパスポート」という考え方が重要になります 。どのメーカーの、どのような性能を持つ材料が、どこに使われているのか。その情報が正確に残っていれば、建物の解体時にそれぞれの材料を最も価値の高い形で再利用・リサイクルする道筋を描くことができます。材料の価値が、そのものだけでなく付随する「データ」によって決まる時代が訪れようとしているのです。
設計のDX:BIMは、いかにして廃棄物の発生を抑制するか
循環型社会に向けた設計思想を具現化する上で、デジタル技術の活用はもはや不可欠です。特にBIM(Building Information Modeling)は、設計・施工プロセス全体を革新し、廃棄物の発生を根本から抑制する強力なツールとして機能します。
BIMとは、単なる3Dの設計ツールではありません。建物の形状、部材、仕様、コストといったあらゆる情報を統合したデジタルモデルを構築し、設計から施工、維持管理に至るまで、関係者全員でその情報を共有・活用するプロセスそのものを指します 。このBIMの活用が、廃棄物削減に劇的な効果をもたらします。
1. 精密化による「過剰発注」の撲滅
従来、建設現場では材料の拾い出し(数量算出)を手作業で行い、不足を恐れて「予備として10%多めに」といった慣習で資材を発注することが一般的でした。この慣習は、初めから廃棄物の発生を計画に組み込んでいるようなものです。
BIMを活用すれば、デジタルモデルから必要な建材の数量をミリ単位で正確に算出できます 。これにより、過剰な発注がなくなり、現場に持ち込まれる資材の量を最適化。結果として、未使用のまま廃棄される材料を大幅に削減できます。
2. 予防による「手戻り工事」の根絶
建設現場で発生する最も無駄の多い廃棄物の一つが、「手戻り工事」によって生じるものです。例えば、施工後に構造体と設備配管が干渉していることが発覚し、一度作った壁や床を壊してやり直すといったケースです。
BIMでは、3次元のデジタル空間上で構造、設備、意匠のモデルを統合し、干渉箇所を自動で検出する「干渉チェック」が可能です 。これにより、物理的な工事が始まる前に設計上の問題をすべて解決できます。現場での手戻りやそれに伴う解体・廃棄を未然に防ぐことは、コスト、工期、そして環境負荷のすべてにおいて絶大な効果を発揮します。
3. 工場連携による「現場廃棄物」の最小化
BIMの真価は、設計データを施工プロセスとダイレクトに連携させることでさらに高まります。その代表例が「プレファブリケーション(プレカット)」です。
BIMモデルから生成された正確な加工データを工場の機械に直接送信し、壁の下地となる軽量鉄骨や内装の石膏ボードなどを、あらかじめ必要な形状・寸法にカットしてから現場に搬入します 。これにより、現場での切断作業が不要となり、端材の発生を劇的に抑制できます。ある内装工事の実証実験では、BIMとプレカットを導入したことで、現場での廃棄物量を
約36%から56%も削減できたという報告があります。これは、廃棄物処理に伴うCO2排出量も同様に削減できることを意味します 。
このように、BIMは廃棄物管理のパラダイムを大きく転換させます。以下の表は、従来現場で起きていた問題が、設計主導のアプローチによっていかに解決されるかを示しています。
| 廃棄物の種類 | 従来の課題 | 設計段階からの解決策 |
| 資材の端材 | 手作業による不正確な数量算出が過剰発注を招く。現場での資材切断により大量の端材が発生する。 | BIMによる数量算出とプレファブリケーション。 モデルから正確な数量を算出し、工場でプレカットすることで現場端材を50%以上削減 。 |
| 手戻りによる廃棄 | 施工中に構造体と設備配管の干渉が発覚。完成した部分を破壊するため、複雑な混合廃棄物が発生する。 | BIMによる干渉チェック。 デジタルモデル上で問題を事前に発見・解決し、手戻り工事そのものをなくす 。 |
| 解体時の廃棄物 | 接着剤などで一体化した部材が多く、分別が困難。破壊的な解体により、価値の低い混合廃棄物が大量に発生する 。 | 解体容易性設計(DfD)のBIMモデル化。 ボルト接合やモジュール設計をBIMで計画。資材情報を記録し、価値の高い資源として回収可能にする 。 |
もはやBIMは、単なる効率化ツールではありません。これまで述べてきた長寿命化設計、解体容易性設計、戦略的な材料選択といった循環型社会の実現に不可欠なコンセプトを、複雑なプロジェクトの中で統合し、管理し、実現可能にするための「基盤技術」なのです。
アルキテックが描く、持続可能な建築の未来
建設廃棄物の削減とリサイクル率の向上は、もはや単なる環境配慮活動ではなく、事業の継続性を左右する経営課題です。そしてその解決の鍵は、現場での努力だけに委ねられるものではなく、建築のライフサイクル全体を見通す設計者の構想力にあります。
本稿で見てきたように、真の循環型社会を建築分野で実現するためには、三つの柱が不可欠です。
- 時間軸を見据えた設計: 建物を長く使い続ける「長寿命化」と、その終わりを価値に変える「解体容易性設計」。
- 循環を前提とした材料選択: リサイクル性に優れた素材を優先し、革新的な再生材を積極的に活用する戦略。
- プロセスを革新するデジタル技術: BIMを駆使して無駄を根絶し、設計思想を精密に具現化する力。
これらのアプローチは、それぞれが独立しているわけではなく、互いに深く関連し合っています。そして、これらを高いレベルで統合し、一つの建築物として結実させるためには、構造、環境・設備、そして建築計画といった異なる専門分野が、プロジェクトの最初期から垣根を越えて協働することが不可欠です。
私たちアルキテックは、構造設計、環境・設備設計、CFS建築、そして大学とも連携する研究開発部門を一体的に提供する総合エンジニアリングパートナーです 。私たちの強みは、まさにこの「統合力」にあります。各分野の専門家がシームレスに連携することで、複雑な課題に対して最適で、かつ先進的なソリューションを提供します。
持続可能な未来の建築を創造することは、一社単独で成し遂げられるものではありません。私たちは、志を同じくする建築家、デベロッパー、建設会社の皆様と共に、設計という最も創造的なプロセスを通じて、循環型社会の実現に貢献していきたいと考えています。未来の世代に誇れる建築を、共に築き上げていきましょう。









