夢のマイホーム計画が進むなか、設計事務所や工務店から分厚い書類の束を手渡されることがあります。「構造計算書」と書かれたその書類は、数百ページにも及び、専門用語と数字がびっしりと並んでいます 。多くのお施主様にとって、その内容を理解するのは非常に難しいと感じるでしょう。
しかし、この構造計算書は、これから建てる家が地震や台風、大雪といった自然の力に対してどれだけ安全かを科学的に証明する、いわば「わが家の安全成績表」ともいえる非常に重要な書類です 。特に、2025年4月からは建築基準法が改正(いわゆる「4号特例」の縮小)され、これまで一部で免除されていた一般的な木造2階建て住宅などでも、詳細な構造計算書の提出が求められるようになります 。これからは、より多くのお施主様がこの書類を目にすることになるのです。
では、専門家でなくても、この複雑な書類のどこを見れば、わが家の安全性を確かめることができるのでしょうか。
私たちアルキテックは、建築の構造と環境に関する専門家集団です 。お施主様が安心して家づくりを進められるよう、専門的な内容をわかりやすく解説します。すべてを理解する必要はありません。これからご紹介する「3つの項目」さえ押さえておけば、設計担当者と意味のある対話ができ、ご自身の納得のいく形でわが家の安全性を確認することができます。
すべてはここから。建物を支える足元は万全か?【地盤と基礎】
建物の安全性を考える上で、多くの人が柱や梁といった目に見える構造に注目しがちです。しかし、構造安全の連鎖は、目に見えない地面の下から始まっています。最初のステップである地盤の評価と基礎の選定を誤れば、その上にどんなに頑丈な建物を建てても、その性能を十分に発揮することはできません。まず確認すべきは、建物を支える「足元」です。
地盤調査は家の健康診断
家を建てる土地が、建物の重さをしっかりと支えられる強さを持っているかを確認する作業が「地盤調査」です 。これは建築基準法で定められた義務であり、省略することはできません 。
住宅の地盤調査では、「スクリューウエイト貫入試験(SWS試験)」という方法が広く用いられます 。この調査によって、土地の固さ(地耐力)や、重さだけで機器が沈んでしまうような軟弱な地層(自沈層)の有無が明らかになります 。
弱い地盤なら「地盤改良」という選択肢
調査の結果、地盤が弱いと判断されても、その土地に家が建てられないわけではありません。その場合は「地盤改良」という工事を行い、地盤の強度を高めます 。これにより、建物が不均等に沈み込んで傾いてしまう「不同沈下」といった深刻な事態を防ぐことができます 。
お施主様のチェックポイント
- 「地盤調査の結果、地盤改良は必要でしたか?もし必要だった場合、どのような工法が採用され、その理由は何ですか?」
地盤に合った「基礎」が選ばれているか
地盤調査や地盤改良の結果を受けて、次に決まるのが建物の「基礎」です。基礎は、建物の荷重を地面に伝える重要な部分で、主に2つの種類があります 。
- ベタ基礎: 建物の底面全体を、鉄筋コンクリートの厚い板で覆う形式です。まるで「スノーシュー(かんじき)」が雪の上で体重を分散させるように、建物の重さを広い面で地盤に伝えるため、比較的弱い地盤にも対応しやすいのが特徴です 。
- 布基礎: 建物の主要な壁の下に沿って、逆T字型の鉄筋コンクリートを帯状に配置する形式です。ブーツで雪の上を歩くように、荷重が線状に集中するため、比較的固く良好な地盤で採用されます 。
どちらの基礎が優れているというわけではなく、その土地の地盤の強さに応じて最適な形式を選ぶことが、安全な家づくりの第一歩となります。
お施主様のチェックポイント
- 「わが家の基礎は、ベタ基礎と布基礎のどちらですか?その形式がこの土地に選ばれた理由を教えてください。」
私たちアルキテックのような構造設計の専門家は、地盤調査データを詳細に分析し、その土地の特性に最も合った安全かつ合理的な基礎形式を設計します。建物の安全は、この見えない部分から丁寧につくり上げていくことが何よりも重要です 。
地震への強さは最高レベルか?【許容応力度計算と耐震等級】
日本は世界有数の地震国です。マイホームを建てる上で、地震に対する強さを確認することは、家族の命と財産を守るために不可欠です。構造計算書では、その強さが「耐震等級」という客観的な指標で示されます。
「許容応力度計算」が行われているか
建物の耐震性を確認する方法には、簡易的な「壁量計算」から、より詳細な「許容応力度計算」まで、いくつかのレベルがあります 。
許容応力度計算は、建物のすべての柱や梁、基礎といった一つひとつの部材に、地震や風、雪などの力が加わった際に、どれくらいの力(応力)が発生し、その部材が耐えられる限界(許容応力度)を超えないかを緻密に検証する、最も信頼性の高い計算方法です 。前述の2025年の法改正により、この詳細な計算が多くの住宅で標準となることからも、その重要性がうかがえます 。
お施主様のチェックポイント
- 「この家の耐震性は、詳細な『許容応力度計算』によって確認されていますか?それとも簡易的な計算方法ですか?」
耐震等級は「3」を目指すのが新常識
許容応力度計算などによって算出される建物の耐震性能は、「耐震等級」として3段階で評価されます 。
- 耐震等級1: 建築基準法で定められた、最低限の耐震性能。震度6強~7程度の大地震で倒壊・崩壊はしないものの、損傷を受ける可能性があり、地震後に住み続けるためには大規模な補修が必要になる場合があります 。
- 耐震等級2: 耐震等級1の1.25倍の強度。学校や病院など、災害時の避難所に指定される公共建築物に求められるレベルです 。
- 耐震等級3: 耐震等級1の1.5倍の強度。消防署や警察署など、防災の拠点となる重要な建物に求められる、現行の最高等級です 。
なぜ「等級3」を目指すべきなのでしょうか。その答えは、2016年に発生した熊本地震の被害調査報告にあります。この地震では、建築基準法レベルである等級1の住宅に倒壊や大きな被害が見られた一方で、耐震等級3の住宅は大きな損傷を受けることなく、ほとんどが無被害でした。多くの住民が、地震後も自宅での生活を継続できたのです 。
耐震等級3は、万一の際に命を守るだけでなく、その後の生活と大切な財産を守るための、いわば「保険」とも言えるのです。
| 耐震等級 | 強度の目安 | 想定される建物 | 地震保険の割引率 |
| 等級1 | 建築基準法レベル | 一般的な住宅 | 10% |
| 等級2 | 等級1の 1.25倍 | 学校・病院 | 30% |
| 等級3 | 等級1の 1.5倍 | 消防署・警察署 | 50% |
出典:
お施主様のチェックポイント
- 「わが家の耐震等級はいくつですか?もし等級3でない場合、等級3にするためには何が必要ですか?」
アルキテックでは、高度な構造設計技術を駆使して耐震等級3の実現をサポートしています 。さらに、自社で研究開発した木造制振ダンパーを用いた「超耐震パック」のようなソリューションを通じて、お客様に最高レベルの安心を提供することを目指しています 。
命を守る骨格は確かか?【構造部材と接合部】
建物の耐震性能が計算上で証明されても、それが実際にどのような材料と技術で実現されているのかを知ることは、お施主様にとって大きな安心につながります。ここでは、家の骨格をなす「構造部材」と、その強度を決定づける「接合部」に注目します。
柱や梁に使われる「部材」の品質
家の骨格は、柱や梁といった「構造部材」で構成されています 。木造住宅の場合、これらの部材には無垢材や、強度を安定させた集成材などが用いられます。重要なのは、どの材料を使うかだけでなく、その品質が保証されているかという点です。例えば、JAS(日本農林規格)の認証を受けた構造用集成材は、一本一本の強度が明確で、計算通りの性能を安定して発揮することが期待できます 。
お施主様のチェックポイント
- 「主要な柱や梁には、どのような種類の木材が使われていますか?それは構造材としての品質が保証されたものですか?」
家の強度を最終的に決める「接合部」
どんなに強い部材を使っても、それらをつなぐ「接合部」が弱ければ、家全体の強度は確保できません。鎖が最も弱い輪の部分で切れてしまうのと同じ理屈です 。
伝統的な木造建築では、木材同士を削ってはめ込む「継手・仕口」が用いられてきましたが、この加工は木材の断面を欠損させ、弱点となる場合がありました 。一方、現代の高性能な住宅では、特殊なボルトやプレートといった「構造金物」を用いて接合部を強固に連結します。これにより、部材の強度を損なうことなく、地震の揺れによる引き抜き力などに強力に抵抗できる骨格をつくり上げます 。
お施主様のチェックポイント
- 「柱と梁などの重要な接合部は、どのように固定されますか?耐震性を確保するために、どのような構造金物が使われるのか見せていただけますか?」
アルキテックが他の設計事務所と一線を画すのは、計算やシミュレーションだけに頼らない点です。私たちは、池袋の本社オフィス内に構造実験室を構えています 。これは、設計事務所としては非常に稀な設備です。ここでは、設計した壁や接合部の実物大モデルを製作し、実際に巨大な力を加えて、どこまで耐えられるのか、どのように壊れるのかを物理的に検証します。
コンピューター上の計算という「理論」と、実物での破壊試験という「現実」を突き合わせることで、計算の精度を極限まで高め、真に信頼できる安全性を追求しています。この経験と実績に裏打ちされた技術こそが、私たちがお施主様に提供する最大の価値です。
「なぜそうなっているのか」を質問できる施主になろう
構造計算書を前にして、専門家になる必要はありません。大切なのは、わが家の安全の根幹に関わるポイントを知り、「なぜこの設計になっているのか」という本質的な質問を設計担当者に投げかけられることです。
今回ご紹介した3つのチェック項目を、もう一度振り返ってみましょう。
- 地盤と基礎: わが家の足元は、この土地の特性に合わせて万全に設計されているか?
- 耐震等級: 家族と財産を守るため、最高レベルの耐震等級3で設計されているか?
- 構造部材と接合部: 家の骨格は、品質の確かな材料と、信頼できる技術で強固に組まれているか?
これらの質問に対して、明確でわかりやすい答えを返してくれる。それこそが、お施主様の家づくりに真摯に向き合う、信頼できるパートナーの証です。
アルキテックは、建築構造と環境技術の専門家集団として、お客様との対話を大切にしています 。私たちは、設計の裏付けとなる「なぜ」を丁寧に説明し、お客様が心から納得できる、安全で快適な住まいづくりを誠実にお手伝いすることをお約束します。









