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地盤改良工事は必須?軟弱地盤のリスクと主要な工法(柱状改良・表層改良)の費用比較

家の本当の土台、それは「地盤」です

マイホームを計画するとき、多くの人の関心はデザインや間取り、インテリアといった目に見える部分に集まりがちです。しかし、これから何十年と家族の暮らしを支え、安全を守り続ける家の本当の土台は、その下に広がる「地盤」に他なりません。どれほど頑丈な建物を建てても、その足元である地盤が弱ければ、その価値と安全性は根本から揺らいでしまいます。

このページでは、家づくりにおける最初の、そして最も重要なステップの一つである「地盤」に焦点を当てます。なぜ地盤の状態を把握することが重要なのか、もし土地の地盤が弱い「軟弱地盤」だった場合にどのようなリスクがあるのか、そしてその対策として行われる地盤改良工事とはどのようなものか。専門家の視点から、分かりやすく解説していきます。安心して長く住める家づくりのために、ぜひ知っておきたい知識です。

なぜ地盤調査は「義務」なのか? – 法律が求める建物の安全性

家を建てる前の地盤調査は、単なる「推奨事項」ではなく、法律によって定められた「義務」です。この背景には、過去の大きな災害から得られた教訓があります。1995年の阪神・淡路大震災では、建物の倒壊だけでなく、地盤の液状化などによる甚大な被害が発生しました。この経験を踏まえ、2000年に建築基準法が改正され、建物を建てる際には事前に地盤調査を行うことが事実上義務化されたのです

法律(建築基準法施行令 第38条)は、建物の基礎について「建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」と定めています 。これは、建物の重さや、地震・強風といった外部からの力を、基礎を通じて地盤へ安全に逃がし、地盤沈下などによって建物が危険な状態にならないように設計しなさい、という意味です。そして、その地盤がどれだけの力に耐えられるか(地盤の許容応力度)は、国土交通大臣が定める方法による地盤調査の結果に基づいて決定しなければならないと定められています

この法的な義務は、建物を建てる事業者が負う10年間の瑕疵担保責任(契約不適合責任)とも密接に関連しています 。万が一、引き渡し後に地盤沈下などで建物に欠陥が見つかった場合、事業者は補修などの責任を負わなければなりません。適切な地盤調査と、必要に応じた改良工事を行うことは、この責任を果たすための大前提であり、ひいては住まい手の資産と安全を守るための重要なプロセスなのです。

「軟弱地盤」に潜む、見過ごせない2つのリスク

地盤調査の結果、土地が「軟弱地盤」であると判定されることがあります。軟弱地盤とは、建物の重さを支えるだけの十分な強度(地耐力)がない地盤のことで、かつて田んぼや沼地、河川、あるいは海だった場所を埋め立てた土地などで多く見られます 。地盤調査報告書にある「自沈層」という記載は、調査用の鉄の棒が回転させなくても自重だけで沈んでいくような特に軟弱な地層を示すもので、改良が必要となる一つの目安です

軟弱地盤に適切な対策をせずに家を建てると、主に2つの深刻なリスクに直面する可能性があります。

不同沈下(ふどうちんか)– 家が傾き、暮らしを脅かす

不同沈下とは、建物の重みによって地盤が不均一に沈下し、建物が傾いてしまう現象です 。建物が均等に沈むことは稀で、ほとんどの場合、どこか一部分が大きく沈むことで傾きが発生します。

この傾きは、建物の基礎や壁にひび割れを生じさせるだけでなく、ドアや窓の開閉が困難になるなど、建物の機能そのものを損ないます 。さらに深刻なのは、住む人の健康への影響です。わずかな傾きであっても、人間は無意識に体のバランスを取ろうとするため、めまいや頭痛、吐き気といった健康被害を引き起こすことが知られています

液状化(えきじょうか)– 地震時に地面が液体になる

液状化は、特に砂質の地盤で発生しやすい現象です。普段は安定している砂の粒子が、地震の強い揺れによって地下水の中で浮遊した状態になり、地盤全体が一時的に液体のようになってしまうことを指します

地盤が液状化すると、建物を支える力を失い、建物が沈んだり傾いたりします 。また、地中にあるマンホールや下水管などが浮き上がり、ライフラインが寸断されるといった被害も発生します 。地面から水や砂が噴き出す「噴砂」という現象が見られることもあります 。液状化による建物の完全な倒壊は少ないとされていますが、一度発生すると大規模な修繕が必要となり、最悪の場合、その家に住み続けることが困難になる可能性もあります。

これらのリスクを正確に評価し、最適な対策を講じるためには、地盤調査データと、計画されている建物の重量や形状、基礎の設計といった構造的な情報を統合して分析する必要があります。ここからが、私たちアルキテックのような建築構造の専門家の役割が重要となる領域です。

主要な地盤改良工法を徹底比較

地盤調査の結果、地盤の強度が不足していると判断された場合、地盤改良工事が必要となります。戸建て住宅で一般的に採用される工法は、主に「表層改良工法」と「柱状改良工法」の2つです。どちらの工法を選択するかは、軟弱地盤の深さや性質によって決まります。

表層改良工法 – 浅い軟弱地盤向けの「面の補強」

原理と適用範囲 表層改良工法は、軟弱な地盤が地表から2m程度までの浅い場合に用いられる工法です 。建物の基礎が乗る部分の土を掘削し、セメント系の固化材を混ぜ合わせ、重機で締め固める(転圧する)ことで、基礎の下に強固な板状の支持層を人工的に作り出します 。原理としては、軟弱な地面に鉄板を敷くと人が歩けるようになるのと同じで、建物の荷重をこの硬い板で受け止め、広範囲に分散させることで安定させます

メリット 最大のメリットは、地盤改良工事の中では費用が最も安価で、工期も1日~2日と短い点です 。また、バックホーなどの比較的小型の重機で施工できるため、狭い土地や変形地でも対応しやすいという利点もあります

デメリット 適用できるのは軟弱層が浅い場合に限られ、2mより深い場合には効果がありません 。また、改良する範囲の地下水位が高い土地や、急な傾斜地では施工できないという制約があります 。さらに、土と固化材を均一に混ぜ合わせ、十分に締め固めるという作業は、施工するオペレーターの技術力に品質が大きく左右される側面も持ち合わせています

柱状改良工法 – 中層の軟弱地盤向けの「柱の補強」

原理と適用範囲 柱状改良工法は、軟弱地盤が地表から2m~8m程度の深さまで続く場合に採用される、最も一般的な工法です 。専用の重機を使い、土を掘り進めながらセメント系の固化材を注入・攪拌することで、地中にコンクリート状の頑丈な柱(改良体)を何本も造ります 。この柱が建物の荷重を支え、その力を柱の先端にある硬い地盤(支持層)に伝えるか、あるいは柱の側面と周囲の土との間に働く摩擦力によって建物を安定させます

メリット 表層改良では対応できない、より深い軟弱地盤を強固にできる点が最大の利点です 。また、改良体の径が大きいため、周囲の土との摩擦力も大きくなります。これにより、非常に硬い支持層まで到達しなくても、摩擦力だけで建物を十分に支える設計が可能な場合があります

デメリット いくつかの注意点が存在します。第一に、火山灰質の土(ローム)や腐植土のような酸性の強い土壌では、セメントがうまく固まらない「固化不良」のリスクがあります 。第二に、土の成分とセメントの化学反応により、有害物質である六価クロムが発生する可能性があり、事前の土壌試験と適切な固化材の選定が不可欠です 。そして最も重要な点が、将来的な土地利用への影響です。一度造られたセメントの柱は産業廃棄物扱いとなり、撤去には莫大な費用と手間がかかります。そのため、将来の土地売却や建て替えの際に、資産価値の低下や計画の制約につながる可能性があります

特徴表層改良工法柱状改良工法
原理地表から2mまでの土とセメント系固化材を混ぜ固め、板状の強固な地盤を形成する。地中にセメント系の柱を何本も作り、建物の荷重を深部の安定した地盤に伝えるか、柱の摩擦力で支える。
適用深度地表から約2mまで地表から約2m~8m
主なメリット費用が最も安い、工期が短い、狭小地でも施工可能。より深い軟弱地盤に対応可能、その深度帯ではコスト効率が良い。
主なデメリット深い軟弱地盤や地下水位が高い土地には不向き。施工品質が作業員の技術に左右されやすい。特定の土質では固化不良のリスク。将来の土地売却や建て替え時に撤去が困難で費用がかかる。

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気になる費用は? – 地盤改良工事のコスト比較

地盤改良工事は、住宅建築の総費用の中でも大きな割合を占める可能性があるため、あらかじめ予算を考慮しておくことが重要です。費用は工法や土地の状況、建物の規模によって大きく変動しますが、一般的な木造住宅(延べ床面積30坪程度)を想定した場合の目安は以下の通りです。

工法坪単価の目安延べ床面積30坪の総額目安
表層改良工法1万円~2万円30万円~50万円
柱状改良工法2万円~3万円50万円~100万円

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出典: などの情報を総合。費用は地域や現場条件により変動します。

表を見てわかる通り、一般的には表層改良工法が最もコストを抑えられます 。しかし、この工法が適用できるのは軟弱層が浅い場合に限られます。軟弱層が深い場合は柱状改良工法が必要となり、費用もそれに伴って増加します。

ここで重要なのは、単に目先の費用だけで工法を判断しないことです。例えば柱状改良工法は、将来土地を売却する際に、地中に残った改良体が資産価値に影響を与える可能性があります 。撤去費用は数百万円に及ぶこともあるため 、初期費用だけでなく、長期的な視点での資産価値や将来の計画まで含めて総合的に判断することが求められます。これは、単なる価格比較ではなく、将来を見据えた戦略的な選択と言えるでしょう。

真の安心は、専門家との連携から生まれる

ここまで見てきたように、安全な家づくりのためには、法律で定められた地盤調査を行い、その結果に基づいて土地の状態を正確に把握することが不可欠です。そして、もし地盤に弱さが認められれば、不同沈下や液状化といった深刻なリスクを回避するために、適切な地盤改良工事を行わなければなりません。

どの工法を選ぶべきかという判断は、軟弱地盤の深さや性質、そして建物の構造計画に基づいて下されます。しかし、ここで一つの課題が浮かび上がります。地盤改良工事の品質は、施工業者の技術力や経験に大きく左右されるという事実です 。建築主が施工現場で、土と固化材の混合比率が適切か、転圧が十分かといった専門的な品質管理を行うことは現実的ではありません。

ここに、私たちアルキテックのような建築構造設計の専門家集団が介在する価値があります。私たちは地盤改良工事を直接施工する会社ではありません。その代わりに、地盤調査データを詳細に解析し、建物の構造計画と照らし合わせ、その土地と建物にとって本当に最適な改良方法は何かを、中立的かつ専門的な立場で判断します。いわば、建物の足元から屋根まで、構造全体の安全性を設計する「安全のアーキテクト(設計者)」です。

私たちの強みは、RC造、鉄骨造、木造、CFS(薄板軽量形鋼)といった多様な構造形式への対応力 、BIM/3D解析などの最新技術の活用 、そして耐震・制振・免震といった高度な地震対策技術に関する深い知見にあります 。これらの総合的なエンジニアリング能力を駆使して、地盤という見えない土台から建物の安全性を一貫して計画し、検証します。

地盤改良は、一度行ってしまえばやり直しが難しい重要な工事です。目先のコストや手軽さだけでなく、長期的な安全性と資産価値を見据えた判断が求められます。建物全体の構造を理解し、あらゆるリスクを想定できる専門家と連携することこそが、未来にわたる真の安心を手に入れるための最も確実な道筋です。

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