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未来を建てる技術:アメリカにおけるCFS建築の進化と、アルキテックが拓く日本の可能性

はじめに:未来の課題に応えるCFS建築という選択肢

日本の建設業界は今、大きな転換期を迎えています。深刻化する労働力不足、持続可能な社会の実現に向けた環境配慮への強い要請、そして頻発する自然災害への備え。これらの複合的な課題は、もはや従来の考え方や技術の延長線上では乗り越えられない段階に来ています。

このような時代背景の中、単なる「新しい工法」としてではなく、これらの課題に対する包括的な「解」として大きな注目を集めているのが、私たちアルキテックが専門とする「CFS建築」です。

CFSとは「Cold-Formed Steel」の略で、日本語では「薄板軽量形鋼」と呼ばれます。具体的には、厚さが約0.8mmから6.0mmの薄い鋼板を、熱を加えることなく常温で折り曲げ加工(冷間成形)して作られた、軽くて強い鋼材を建物の骨組みに用いる建築工法です。この工法を最も分かりやすく理解するには、日本でも広く普及している「木造2×4(ツーバイフォー)工法」を思い浮かべると良いでしょう。2×4工法は、規格化された木材で枠を組み、それに構造用合板を張って壁や床という「面」で建物を支える、耐震性に優れた工法です。CFS建築は、この2×4工法の木材の枠を、高性能な亜鉛めっき鋼板に置き換えたものと考えることができます。

しかし、CFS建築の本質的な価値は、単なる材料の置き換えに留まりません。それは、BIM(Building Information Modeling)などのデジタル技術を駆使した設計、工場での精密な部材生産、そして現場での効率的な組み立てまでを一つの流れとして捉える、先進的な「建築システム」そのものにあります。このシステムこそが、工期の短縮、品質の安定化、そして環境負荷の低減といった、現代の建築が抱える課題に対する強力な解決策となるのです。

私たちアルキテックは、構造設計、環境・設備設計、そしてCFS建築の専門家集団として、この先進的な建築システムを日本でリードする存在です。本稿では、CFS建築の先進国であるアメリカでの100年以上にわたる発展の歴史を紐解き、最先端のプロジェクト事例を紹介するとともに、未来の建築を形作る大きな潮流を解説します。そして、その知見を基に、アルキテックが日本の建築の未来をどのように切り拓いていくのか、そのビジョンを示します。

アメリカの歩み:CFS建築、100年のイノベーション史

CFS建築が現代の建設業界で注目を集めている背景には、一朝一夕ではない、長年にわたる技術開発と信頼性確立の歴史があります。この工法が一過性の流行ではなく、工学的に確立された成熟した技術であることを理解するために、その発祥地ともいえるアメリカでの歩みを振り返ります。

黎明期と社会へのデビュー

CFSの利用は、実は100年以上前の19世紀半ばにまで遡ります。1850年代にはアメリカとイギリスで、建材としての利用が実験的に始まりました。初期の顕著な例としては、1849年のカリフォルニア・ゴールドラッシュ時代に、ニューヨークの屋根職人ピーター・ネイラーが宣伝した「カリフォルニア向けのポータブル鉄製住宅」が挙げられます。この住宅は、溝付きの鉄材をスライドさせて組み立てることで、1日足らずで建設可能であり、木造より安価で耐火性にも優れていると謳われていました。

建物の構造部材として明確に記録されている初期の事例は、1925年頃にバージニア州リンチバーグに建設されたバージニア・バプテスト病院です。この建物は、壁こそ組積造でしたが、床を支えるシステムとして、CFSのリップ溝形鋼を背中合わせに組み合わせた部材が採用されていました。

そして、CFS建築が社会にその可能性を鮮烈に印象付けたのが、1933年に開催されたシカゴ万国博覧会でした。「未来の家」と題された展示エリアでは、鉄骨で骨組みが作られた住宅が複数公開され、中でも「ジェネラル・ハウス」「アームコ・フェロ・ハウス」「ストラン・スチール・ハウス」などは、CFSを全面的に採用した先進的な試みとして大きな注目を集めました。博覧会の公式プログラムでは、「工場で製造された部材、プレハブ化された壁、迅速な組み立てを可能にする鉄骨フレームとネジ」といった言葉で、この新しい建築の時代の到来が謳われました。

標準化への道と信頼性の確立

初期の成功事例や博覧会での注目にもかかわらず、CFS建築が広く普及するには大きな壁がありました。それは、統一された設計基準や建築法規が存在しなかったことです。熱を加えて圧延する重量鉄骨(熱間圧延形鋼)とは異なり、薄い鋼板を常温で加工するCFSは、部材が局部的に座屈しやすいなど、特有の構造的挙動を示します。そのため、既存の鉄骨造の基準をそのまま適用することはできませんでした。

この状況を打開する転機となったのが、1939年に米国鉄鋼協会(AISI)の支援のもと、コーネル大学で開始された研究プロジェクトです。この研究を主導したジョージ・ウィンター教授は、その多大な功績から、後に「CFSの父」と称されるようになりました。

長年にわたる地道な研究と実験の末、1946年にその成果は「Specification for the Design of Light Gauge Steel Structural Members(軽量鋼構造部材設計規準)」の初版として結実します。これは、CFS建築の歴史において最も重要な出来事の一つです。この規準の制定により、CFS建築は一部の企業が持つ独自技術から、誰もが利用できる工学的に確立された一般工法へと昇華しました。これにより、設計者は信頼性のある計算に基づいて安全な建物を設計できるようになり、CFS建築は社会的な信頼を獲得する礎を築いたのです。

商業建築への展開と市場の拡大

第二次世界大戦後、復員兵の帰還などによる住宅不足を背景に、ラストロン社などがCFSを用いたプレハブ住宅を数千戸単位で供給するなど、住宅市場での活用が試みられました。しかし、CFSが真にその地位を確立したのは、1950年代から60年代にかけての商業建築分野での展開でした。

高層ビルの建設が盛んになる中で、CFSは建物の重量を増やさない「非構造部材」として理想的な材料でした。特に、室内の間仕切り壁や、建物の外壁を構成するカーテンウォールにおいて、その軽量性、不燃性、施工性の高さが評価され、急速に普及しました。例えば、ニューヨークのワールドトレードセンターのシャフト壁(エレベーターや階段室を囲う壁)には、足場を組まずに片側から施工できる特殊なCFSシステムが採用され、工期短縮と安全性向上に大きく貢献しました。

2004年の時点では、アメリカで建設される内壁の81%がCFSで構成されるに至り、市場での圧倒的なシェアを確立しました。このように、まずは非構造部材として広く使われることで、建設業界全体がCFSの取り扱いに習熟し、その利便性と信頼性への理解が深まりました。この経験の蓄積が、後の構造部材としての利用拡大、すなわち今日のCFS建築の隆盛へとつながっていくのです。

最先端の現場から:アメリカの最新CFSプロジェクト事例

100年以上の歴史を経て成熟したCFS建築技術は、現代のアメリカにおいて、単なる構造体にとどまらず、建築における様々な課題を解決するソリューションとして活用されています。ここでは、その多様性と先進性を示す3つの代表的なプロジェクトを紹介します。

Case Study 1: 複雑な意匠を実現する設計自由度 – アメリカオリンピック・パラリンピック博物館

CFS建築が画一的なデザインしか実現できないというのは、過去のイメージに過ぎません。その高い設計自由度を象徴するのが、コロラド州コロラドスプリングスに建設された「アメリカオリンピック・パラリンピック博物館」です。

この60,000平方フィート(約5,570㎡)の施設は、アスリートの躍動感から着想を得た、ダイナミックにねじれながら上昇していくような、極めて複雑な形状をしています。この有機的なフォルムと、建物を覆う多数の陽極酸化アルミパネルの外装を支えているのが、CFSの骨組みです。軽量でありながら高い強度を持つCFSは、このような従来の工法では実現が困難な三次元曲面を持つデザインを、構造的に成立させる上で重要な役割を果たしました。この事例は、CFSがアトリエ系の建築家が描く独創的なビジョンを形にするための強力なツールとなり得ることを示しており、多様な建築設計を手掛けるアルキテックの専門性とも深く関連します。

Case Study 2: 建設DXによる工期短縮と効率化 – HCAスウェディッシュ・メディカルセンター

現代の建設プロジェクト、特に病院のように社会的な要請が高い施設においては、工期の遵守と効率化が極めて重要です。コロラド州イングルウッドで実施された「HCAスウェディッシュ・メディカルセンター」の増築プロジェクトは、CFSが可能にする建設デジタルトランスフォーメーション(DX)の好例です。

この1億1800万ドル規模のプロジェクトは、6階建ての病棟を増築するというものでした。ここで採用されたのが、CFSのフレームと外装下地材を一体化した外壁パネルを工場で事前生産する「プレファブリケーション(プレハブ)工法」です。工場で精密に製造されたパネルを現場に搬入し、ユニット化されたカーテンウォールシステムを用いて迅速に取り付けていきました。

このモジュラーアプローチにより、プロジェクトの遅延なく2フロア分の追加増築を可能にしただけでなく、24時間稼働している既存病院への影響を最小限に抑えることにも成功しました。これは、日本が直面する労働力不足や工期短縮といった課題に対する直接的な回答であり、アルキテックが提供するCFS建築ソリューションがもたらす価値を具体的に示しています。

Case Study 3: 持続可能で強靭な都市型住宅 – クイーンズ大通り6525番地の集合住宅

都市部における住宅供給、特に手頃な価格帯の住宅においては、長期的な耐久性と低いメンテナンスコスト、そして建設の効率性が求められます。ニューヨーク市クイーンズ区に建設中の9階建て集合住宅「クイーンズ大通り6525番地」は、こうした要求にCFSが見事に応えた事例です。

このプロジェクトでは、建物の耐久性と構造的完全性を高めるために、CFSフレーム(メタルスタッド)が全面的に採用されています。木材のように湿気による伸縮や反りがなく、シロアリなどの害虫被害の心配もないCFSは、建物の長寿命化に大きく貢献します。また、部材が軽量であるため、都市部の限られた敷地でも効率的に建設を進めることが可能です。この事例は、CFSがマンションやアパートといった中層の共同住宅において、品質、耐久性、そして持続可能性を高いレベルで実現できることを証明しており、アルキテックが手掛ける多くの住宅プロジェクトにおいても応用可能な知見を提供しています。

未来の標準へ:CFSの進化を加速させる3つのメガトレンド

CFS建築の普及は、単なる材料の特性だけで進んできたわけではありません。今、建設業界全体を巻き込む大きな技術的・社会的な潮流が、CFSの進化をさらに加速させています。ここでは、その未来を決定づける3つのメガトレンドを解説します。

Trend 1: サステナビリティという必須要件

環境への配慮は、もはや特別な取り組みではなく、あらゆる産業における必須要件となっています。CFS建築は、そのライフサイクル全体を通じて、極めて高い持続可能性を誇ります。

  • 高いリサイクル性能: スチールは、品質を損なうことなく無限にリサイクルできる「真の循環型素材」です。建設分野で使われる鋼材のリサイクル率は74%に達し、CFSフレームも100%リサイクルが可能です。
  • リサイクル材の活用: CFSフレームには最低でも25%以上のリサイクル材が含まれており、新たな資源採掘の抑制に貢献しています。
  • 廃棄物の削減: BIMと連携した精密な設計と工場生産により、現場での端材発生が劇的に減少します。従来の工法では20%以上発生することもあった建設廃棄物が、CFSでは1%未満に抑えられるケースもあります。
  • 透明性の確保: 近年では、製品のライフサイクル全体における環境影響を定量的に評価・開示する「環境製品宣言(EPD)」の整備が進んでいます。米国鉄骨フレーミング産業協会(SFIA)は業界全体のEPDを公開しており、設計者がより環境性能の高い建材を選択できる透明性を提供しています。

これらの特性は、LEEDなどの国際的な建築物環境性能評価システムにおいても高く評価され、認証取得に大きく貢献します。

Trend 2: デジタル化とオートメーションの波

建設業界の生産性向上を牽引するのが、デジタル化とオートメーションです。CFS建築は、その工業製品としての特性から、これらの技術と極めて高い親和性を持ちます。

  • BIMとの完全な連携: CFS建築の設計プロセスは、BIM(Building Information Modeling)の活用が前提となります。3Dモデル上で構造体や設備配管などを統合的に設計することで、施工前に干渉箇所などの問題を洗い出し、手戻りを防ぎます。アルキテックでも、CFS建築にBIMを積極的に活用し、設計の高度化に取り組んでいます。
  • 設計から製造へのシームレスな連携: BIMで作成された設計データは、そのまま工場の製造機械に送られます。これにより、ロールフォーマーと呼ばれる機械が鋼板を自動で切断・加工し、ミリ単位の精度で部材を生産します。
  • ロボットによる自動化: 寸法安定性に優れたCFS部材は、ロボットによる自動化にも最適です。工場では、ロボットアームが部材の溶接やパネルの組み立てを行い、品質の均一化、生産性の向上、そして作業員の安全確保を実現しています。

Trend 3: オフサイト建設(プレファブリケーション)への移行

デジタル化とオートメーションの進化がもたらす必然的な帰結が、オフサイト建設、すなわちプレファブリケーションへの移行です。これは、建設プロセスの大部分を天候に左右されない工場内で行うという考え方です。

CFSを用いた壁パネル、床システム、屋根トラスなどが、配線や配管、断熱材、窓の取り付けといった工程まで含めて工場で製造されます。これらのユニット化された部材を現場に運び込み、クレーンなどで組み立てることで、建設プロセスは劇的に変化します。

その効果は絶大で、現場での作業が大幅に削減されるため、熟練工への依存度が低下し、工期は半分以下に短縮されることもあります。また、管理された工場環境で生産されるため、品質のばらつきがなくなり、高い性能が安定して確保されます。ウィスコンシン州の集合住宅「メトロー・アパートメント」では、この工法により25万ドルのコスト削減と工期前倒しを実現しました。

これら3つのトレンドは、それぞれが独立しているわけではありません。鋼材の「精密性」が「デジタル化」を可能にし、「デジタル化」が「オートメーション」を駆動し、「オートメーション」が効率的な「プレファブリケーション」を実現し、そのプロセス全体が「サステナビリティ」に貢献するという、強力な好循環(バーチャス・サイクル)を形成しています。この循環こそが、CFS建築システムが未来の標準となり得る本質的な理由なのです。

メリット詳細日本市場への示唆
工期短縮プレファブ化により現場作業を大幅に削減。天候の影響を受けにくく、従来工法比で数ヶ月の短縮が可能。労働力不足が深刻化する中、プロジェクトの迅速な完了と早期の投資回収を実現。
高い品質と精度工場生産による均質な部材とBIM連携による設計通りの施工。木材のような反りや収縮がなく、寸法安定性に優れる。建物の長寿命化とメンテナンスコストの削減に貢献。施工者による品質のばらつきを抑制。
サステナビリティ高いリサイクル率とリサイクル材使用率。現場廃棄物を大幅に削減し、LEEDなど環境認証取得に有利。脱炭素社会の実現に向けた企業のESG経営目標の達成に貢献。
設計の自由度高い強度重量比により、大スパンや複雑な形状、中層建築(最大10階程度)まで対応可能。都市部の限られた敷地での建築や、意匠性の高い建築家の要求にも柔軟に対応。
安全性と耐久性不燃材料であるため耐火性に優れる。シロアリ等の害虫被害や腐食の心配がない。地震や強風にも強い構造。頻発する自然災害に対し、人命と資産を守るレジリエントな建築を実現。

結論:アルキテックが描く、日本のCFS建築の未来

アメリカにおけるCFS建築の100年以上にわたる歩みは、それが単なる建材ではなく、時代の要請に応えながら進化を遂げてきた、信頼性と革新性を兼ね備えた建築システムであることを明確に示しています。実験的な試みから始まり、厳格な工学的研究によって標準化され、最先端のデジタル技術と融合することで、今やサステナビリティ、効率化、設計自由度といった現代建築の至上命題に対する最適な解の一つとなっています。

私たちアルキテックは、このCFS建築が日本の建設業界が直面する課題を乗り越え、次のステージへと進むための鍵であると確信しています。私たちの強みは、単にCFS建築の設計を行うだけでなく、建築構造と環境・設備設計の知見を統合し、研究開発から設計、施工支援までを一貫して提供できる総合力にあります。

本社内に本格的な構造実験設備を備え、早稲田大学をはじめとする研究機関との連携を通じて、常に技術の最先端を追求しています。また、代表の脇田が一般社団法人日本CFS建築協会の代表理事を務めるなど、業界全体の発展を牽引する役割も担っています。

私たちが描く未来は、CFS建築が日本の「あたりまえ」になる社会です。工場で精密に作られた高品質なユニットが、BIMデータに基づいて現場で迅速かつ安全に組み立てられ、人々は災害に強く、環境に優しく、そして快適な空間で暮らす。それは、建設業界の生産性を飛躍的に向上させると同時に、より豊かで持続可能な社会資本を次世代へと引き継いでいくことに他なりません。

アルキテックは、CFS建築のリーディングカンパニーとして、アメリカで培われた先進的な知見と、自社で磨き上げた独自の技術力を融合させ、日本の風土や社会に最適化された形でこの優れた建築システムを普及させていくことをお約束します。

CFS建築にご興味のある施主様、建設会社様、不動産会社様、設計事務所様は、ぜひお気軽に私たちアルキテックまでお問い合わせください。共に、建築の未来を創造していきましょう。

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