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建設資材高騰は続くのか?コスト上昇時代を乗り切るための設計・構造の工夫

序章:建設コストの新常態と向き合う

建設業界を取り巻く環境は、近年大きく変化しました。かつて一時的な現象と見られていた建設資材の価格高騰は収束の兆しを見せず、今や「高止まり」の状態が常態化しつつあります 。国土交通省が発表する建設工事費デフレーターを見ても、その数値は上昇を続けており、特に近年の上昇幅は看過できないレベルに達しています 。この状況は、もはや短期的な価格変動ではなく、業界全体の構造的な変化、すなわち「新常態(ニューノーマル)」として捉えるべき局面に来ています。

このような時代において、ただ価格が下がるのを待つという受け身の姿勢では、プロジェクトの採算性を確保することは困難です。求められるのは、コスト上昇を前提とした上で、いかにして建築物の価値を損なうことなく、むしろ向上させながらコストを最適化するかという、積極的かつ戦略的なアプローチです。

私たちアルキテック株式会社は、建築の構造と環境技術を専門とするエンジニア集団です 。この困難な時代において、安全性・快適性・持続可能性を高い次元で両立させるための「エンジニアリングパートナー」として、誠実で創意工夫に満ちた設計と技術コンサルティングを提供することをお約束します 。本稿では、まず資材高騰が続く背景を深く理解し、その上でコスト上昇時代を乗り切るための具体的な設計・構造上の工夫について、私たちの知見を交えながら解説します。重要なのは、プロジェクトの終盤で品質を犠牲にする「コストダウン」ではなく、設計の初期段階から価値の最大化を目指す「バリューエンジニアリング」の視点です。

第1部:資材高騰はなぜ続くのか?複合的な要因を理解する

現在の建設コスト高騰に効果的に対処するためには、その根本原因を正しく理解することが不可欠です。この問題は単一の要因によって引き起こされているのではなく、複数の国際的・国内的要因が複雑に絡み合った結果です。

世界的な供給ショックと需給バランスの崩壊

2021年頃から顕著になった「ウッドショック」と「アイアンショック」は、資材高騰の大きな引き金となりました。新型コロナウイルス禍からの経済回復期において、特にアメリカや中国で住宅需要が急増し、木材や鉄鉱石といった基幹資材の需要が世界的に供給を上回ったのです 。日本の木材自給率は約半分にとどまり、多くを輸入に依存しているため、この国際市場の価格高騰は国内価格に直接的な影響を及ぼしました 。鉄鋼に関しても同様で、原材料価格の上昇が国内メーカーの製品価格引き上げにつながっています

為替、地政学リスク、エネルギー問題の連鎖

長期化する円安傾向は、輸入資材の価格を押し上げる直接的な要因です 。日本は木材や鉄鉱石だけでなく、多くの建材やその原材料を輸入に頼っているため、為替変動の影響を大きく受けます 。さらに、ウクライナ情勢のような地政学的な不安定さは、特定の国からの木材やエネルギー資源の供給を滞らせ、世界的なサプライチェーンに混乱をもたらしました

これらの要因は独立しているわけではなく、相互に影響し合い、負のスパイラルを生み出しています。例えば、地政学リスクによる原油価格の高騰は、ガソリン代や電気料金の上昇につながります 。これにより、資材を製造する工場の操業コストや、現場へ輸送するための物流コストが増大します 。高騰した国内の製造・輸送コストは、結果として資材価格に転嫁されます。この状況は、円安によってさらに高価になった輸入材への依存度を高めることにも繋がりかねず、一つの要因が他の要因を増幅させるという複雑な構造を形成しているのです。

国内の構造的課題:労働力不足

グローバルな要因に加え、国内では建設業界の慢性的な労働力不足という構造的な問題が存在します。いわゆる「2024年問題」に象徴されるように、働き方改革への対応が求められる一方で、熟練技能者の高齢化と若年層の入職者減少が進行しており、労務費は年々上昇傾向にあります 。公共工事設計労務単価が12年連続で上昇している事実は、この傾向を明確に示しています

これらの要因が複雑に絡み合っているため、資材価格がかつての水準にまで下がることは当面期待しにくく、建設業界はこの高コスト環境を前提とした事業戦略の再構築を迫られています 。最も確実な対策は、こうした外部環境の変動に左右されにくい、建築物そのもののあり方、つまり設計と構造の工夫によって、根本的な資材使用量や工数を削減していくことです。

第2部:最大のコスト削減効果を生む「上流工程」の工夫

建設プロジェクトにおいて、コストに最も大きな影響を与えるのは、施工段階ではなく、そのはるか手前にある「設計」という上流工程です。この初期段階での判断が、後の工程すべてのコストを規定すると言っても過言ではありません。賢明な設計は、単に初期投資を抑えるだけでなく、プロジェクト全体の健全性を高めることにも繋がります。

形状の最適化:シンプルさがもたらす経済合理性

建物の形状は、コストを左右する根源的な要素です。凹凸の多い複雑な平面形状や、入り組んだ屋根形状は、意匠的な魅力を生む一方で、経済的には非効率です。

  • 外周長と面積の関係:同じ延床面積であっても、正方形に近い単純な形状は外周長が最も短くなります。外周長が長くなるほど、基礎の長さ、外壁の面積、そして屋根の面積が増加し、それに伴い材料費と施工手間が比例して増大します 。
  • 「総二階」の優位性:2階建ての場合、1階と2階の面積がほぼ同じ「総二階」に近い形状は、基礎面積を最小限に抑えることができるため、コスト効率に優れています 。

このような設計のシンプルさは、単なるコスト削減策にとどまりません。現在の不安定な市場環境においては、強力なリスク管理手法となり得ます。複雑な設計は、多種多様な資材、特注の部材、そして専門的な技能を持つ職人を必要とします。サプライチェーンが混乱しがちな状況では、これらの一つ一つの要素が遅延やコスト増のリスク要因となります 。一方、標準的な資材で構成できるシンプルな設計は、調達が容易で、工期も予測しやすいため、プロジェクト全体のリスクを低減させる効果があるのです。

空間の効率化と合理的なプランニング

最も直接的で効果的なコスト削減策は、建物の規模、すなわち延床面積を最適化することです 。これは単に家を小さくするという意味ではありません。家族のライフスタイルや事業の将来計画を丁寧に見つめ直し、本当に必要な空間を見極め、多機能に使えるスペースを設けるなど、無駄を徹底的に排除する設計思想が求められます。

また、設備計画においても合理化の余地は大きく残されています。キッチン、浴室、洗面所、トイレといった水回りを一箇所に集中させることで、給排水や換気の配管長を大幅に短縮できます 。これにより、材料費だけでなく、複雑な配管工事に伴う施工費も削減することが可能です。

開口部の見直し:性能とコストのバランス

窓やドアなどの開口部は、断熱性能や意匠性を左右する重要な要素ですが、同時にコストの高い部材でもあります。採光や通風に必要な開口部は確保しつつ、その数、大きさ、仕様を慎重に検討することが重要です 。例えば、使用頻度の低い場所の窓を減らす、あるいは高価な特殊窓の採用を見直すといった工夫が考えられます。窓の数を減らすことは、サッシ本体やガラスの費用削減だけでなく、外壁の面積を増やし、施工を単純化する効果もあります。さらに、開口部からの熱損失を減らすことで、建物の断熱性能が向上し、長期的な光熱費、すなわちライフサイクルコストの削減にも貢献します

第3部:構造設計におけるバリューエンジニアリング(VE)の実践

建築コスト全体の中で、構造体が占める割合は非常に大きいものです。したがって、構造設計は単に建物の安全性を確保するだけのプロセスではなく、コストを最適化するための極めて強力な手段となります。ここで重要になるのが、「コストダウン(CD)」と「バリューエンジニアリング(VE)」の違いを明確に理解することです。

CDは、品質や性能の低下を許容してでもコストを削減する手法を指します 。一方、VEは「価値=機能/コスト」という考えに基づき、必要な機能や品質を維持、あるいは向上させながら、ライフサイクルコスト全体で最も経済的な設計を目指す組織的な取り組みです 。私たちアルキテックは、このVEの思想を構造設計の根幹に据えています。

戦略的な構造形式の選定

建物の用途、規模、立地条件に応じて最適な構造形式(RC造、S造、木造など)を選択することは、VEの第一歩です。近年、技術の進歩により、従来とは異なる選択肢が現実的なものとなっています。

  • CFS(冷間成形薄板形鋼)建築の可能性:CFSは、厚さ数ミリの鋼板を冷間で成形した軽量な構造部材です。工場での精密な加工が可能で、現場での施工性が高く、工期短縮に大きく貢献します。また、軽量であるため基礎への負担が少なく、地盤改良や基礎工事のコストを削減できる可能性があります。アルキテックは、代表が一般社団法人日本CFS建築協会の代表理事を務めるなど、この分野において深い知見と実績を有しており、その普及に積極的に取り組んでいます 。
  • 中大規模木造建築の採用:環境配慮の観点からも注目される木造建築は、その軽量性という特性がコスト面で大きなメリットをもたらします 。鉄骨造やRC造に比べて建物全体の重量が軽くなるため、杭や基礎の規模を縮小でき、特に地盤が軟弱な敷地において大きなコスト削減効果が期待できます。

高度な解析技術と研究開発に裏打ちされた最適化

構造形式を選定した上で、さらにコストを追求するには、部材一つひとつの寸法をいかに最適化するかが鍵となります。これは、高度な構造計算と解析技術を駆使して、安全性を確保しつつ、鉄骨の重量やコンクリートの量を最小限に抑えるプロセスです

この点において、アルキテックの強みは、自社内に本格的な構造実験設備を備え、研究開発(R&D)を事業の柱としている点にあります 。早稲田大学をはじめとする研究機関との連携を通じて、常に新しい工法や材料の性能評価を行い、その知見を日々の設計業務にフィードバックしています 。教科書通りの設計にとどまらず、実験と解析に裏付けられた革新的な設計手法を用いることで、従来の常識を超えるレベルでの経済合理性を追求することが可能です。

以下の表は、コスト上昇時代において構造設計を見直す際の主要な着眼点をまとめたものです。

着眼点 (Perspective)具体的な手法 (Specific Method)コスト削減効果 (Cost Reduction Effect)検討のポイント (Key Consideration)
構造形式の最適化 (Structural System Optimization)・RC造、S造、木造、CFS造の特性を比較検討 ・軽量な構造(木造、CFS造)の採用・基礎工事のコスト削減 ・揚重機・仮設費の低減 ・工期短縮による労務費削減・建物の規模、用途、防火要件 ・CFS造など新技術への知見
部材寸法の最適化 (Member Size Optimization)・高度な構造解析による部材断面の最小化 ・応力に応じた合理的な配筋計画・鉄骨重量、コンクリート・鉄筋数量の直接的な削減・過度な最適化は加工・施工の複雑化を招く可能性 ・解析精度と安全性の担保
基礎・地盤の合理化 (Foundation/Ground Rationalization)・詳細な地盤調査に基づく最適な基礎形式の選定 ・地盤改良工法のVE・掘削土量、コンクリート・鉄筋数量の削減・地盤調査の精度がコストを左右する ・長期的な不同沈下リスクの評価
構造計画の合理化 (Structural Plan Rationalization)・柱スパン、階高の経済的な設定 ・耐力壁の効率的な配置・スラブ厚や梁せいの低減 ・全体の資材物量の削減・意匠設計との密な連携が不可欠 ・将来のプラン変更への柔軟性

第4部:未来を拓く技術:BIMとプレファブ化による効率化

設計と構造の工夫に加え、現代の建設プロセスにおいてコスト管理の強力な武器となるのが、デジタル技術の活用と建設手法の工業化です。特にBIM(Building Information Modeling)とプレファブ化は、生産性を飛躍的に向上させ、無駄を削減するための鍵となります。

コスト管理ツールとしてのBIM

BIMは単なる3次元の設計ツールではありません。建物の形状情報に加えて、部材の仕様、数量、コストといった属性情報を統合管理するデータベースであり、プロジェクト全体を最適化するためのプラットフォームです。

  • フロントローディングによる手戻りの防止:BIMを活用することで、設計の初期段階(フロントローディング)で意匠、構造、設備の詳細な納まりを3次元で検討できます 。これにより、施工段階で発覚しがちな干渉(クラッシュ)や不整合を事前に発見・解決することができ、現場での手戻りやそれに伴う追加コスト、工期遅延を未然に防ぎます 。
  • 精緻な数量算出と発注:BIMモデルからは、必要な資材の数量を正確かつ自動的に算出できます 。これにより、過剰な発注による資材の無駄や、不足による手配の遅れといったリスクを低減し、発注金額の削減に繋がります 。
  • 関係者間の円滑な情報共有:単一のBIMモデルを全てのプロジェクト関係者が共有することで、情報の齟齬や伝達ミスを防ぎ、円滑なコミュニケーションを促進します。これは、ヒューマンエラーに起因するコスト増を抑制する上で極めて有効です 。

BIMと連携したプレファブ化の推進

プレファブ化(オフサイトコンストラクション)は、建築部材を工場で製作し、現場では組み立てに特化する建設手法です。品質の安定化、現場作業の省力化、そして工期短縮に絶大な効果を発揮し、高騰する現場労務費への有効な対策となります。

BIMの活用は、このプレファブ化をさらに高度なレベルへと引き上げます。BIMモデルの持つ精緻なデジタル情報は、プレカット加工機や鉄骨の自動製作ラインに直接連携させることが可能です 。これにより、人の手を介さずに高精度な部材を製作でき、現場での組み立て作業をスムーズに進めることができます。特に、CFSや木造といった軽量構造は、部材の工業化・ユニット化との親和性が非常に高く、BIMとプレファブ化を組み合わせることで、そのメリットを最大限に引き出すことができます

実践事例:2025年大阪・関西万博「ウズベキスタン館」

私たちアルキテックが構造設計を担当した2025年大阪・関西万博の「ウズベキスタン館」は、まさにこうした最先端の技術と設計思想が結実したプロジェクトです 。このパビリオンは、一辺約35mの三角形平面を持つ、木造を主体とした複雑かつ独創的なデザインを特徴としています

このような大規模かつ非定型な木造建築を実現するためには、伝統的な設計手法だけでは対応が困難です。3次元での詳細な構造モデリングと、高度な構造解析技術を駆使することで、意匠デザインの要求を満たしながら、日本の厳しい耐震基準をクリアする安全な構造計画を立案しました。また、複雑に組み合わさる木材は、その多くが工場で精密にプレカットされており、現場での迅速かつ正確な組み立てを可能にしています。

この国際的な注目を集めるプロジェクトは、アルキテックが持つ高度な構造解析能力、大規模木造に関する知見、現代的な設計プロセスを実践する能力を証明するものです。コストや工期、安全性の確保といった厳しい制約の中で、いかにして建築家のビジョンを具現化するか。その問いに対する一つの答えが、ここにあります。

結論:コスト上昇時代を乗り切るためのエンジニアリングパートナー

建設資材価格の高騰と労働力不足が常態化する現代において、従来の延長線上にある発想だけでは、プロジェクトを成功に導くことはますます困難になっています。このコスト上昇時代を乗り切る鍵は、設計の初期段階に遡り、建築のあり方を根本から見直すことにあります。

本稿で解説してきたように、そのアプローチは多岐にわたります。

  1. 設計の上流工程で、建物の形状や空間構成をシンプルかつ効率的に計画し、コストの源流をコントロールする。
  2. 構造設計において、品質を犠牲にするコストダウンではなく、価値の最大化を目指すバリューエンジニアリングを実践し、高度な解析と新技術の採用によって資材物量を最適化する。
  3. 建設プロセスにおいて、BIMやプレファブ化といったデジタル技術と工業化手法を積極的に導入し、生産性を抜本的に向上させる。

これらの戦略は、それぞれが独立しているのではなく、相互に連携することで最大の効果を発揮します。そして、その連携の中心にいるのが、私たちのような建築構造・環境技術の専門家です。

アルキテック株式会社は、単なる構造設計事務所ではありません。構造設計、環境・設備設計、CFS建築、そして大学と連携した研究開発までを一体的に提供する総合的な「エンジニアリングパートナー」です 。自社内に備えた実験設備で新たな技術を検証し 、住宅から商業施設、そして万博パビリオンのような国家的プロジェクトまで、多岐にわたる実績を積み重ねてきました

私たちは、お客様の課題に真摯に向き合い、創造的なエンジニアリングを通じて、経済合理性と建築としての価値を両立させるソリューションを提案します。コストという厳しい制約は、時として新たな発想を生むきっかけにもなります。この困難な時代を共に乗り越え、持続可能な未来の建築を創造していくために、ぜひ私たちアルキテックにご相談ください。

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