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省エネ基準適合義務化で何が変わる?設計者・施主が知っておくべきZEHの基礎知識

はじめに

日本の建築界に、大きな転換点が訪れようとしています。2025年4月から、住宅やビルを新築する際のルールが大きく変わりました。これは単なるマイナーアップデートではありません。これから建てられるすべての建築プロジェクトに影響を及ぼす、根本的な変化です。

これから家を建てようとお考えの施主の皆様、そして設計に携わる設計者の皆様にとって、この変化は新たな責任と同時に、大きなチャンスをもたらします。「省エネ基準適合義務化」とは一体何なのか?そして、近年よく耳にする「ZEH(ゼッチ)」住宅とどう関係しているのでしょうか?

このブログでは、これらの重要なテーマを、誰にでも分かりやすく解説していきます。何が変わり、なぜそれが重要で、そしてこの新しい建築の時代をどう乗り越えていけばよいのか。本当に価値があり、快適で持続可能な建築物を生み出すための知識を、一緒に見ていきましょう。

1. 2025年4月、すべての新築建築物に「省エネ基準」が義務化されます

1-1. なぜ今、義務化されるのか?

この法改正は、日本が国として掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた重要な一歩です 。建物は社会全体のエネルギー消費の大きな割合を占めており、その性能向上は気候変動対策に不可欠です。

これまで、一定規模以上の建築物には届出義務が、小規模な住宅などには設計者から施主への説明義務制度が設けられていました 。しかし、これらは廃止され、より強力な「適合義務」へと一本化されます。これは、省エネ性能を「推奨」する段階から、法的に「必須」とする段階へ、国の政策が大きく舵を切ったことを意味します。

1-2. 何が変わる?設計・建築プロセスの重要ポイント

今回の改正で最も重要な点は、省エネ基準への適合が「建築確認」のプロセスに組み込まれることです

具体的には、設計された建物が省エネ基準を満たしていない場合、「確認済証」が交付されなくなります。そして、この確認済証がなければ、工事を始めることができません 。つまり、省エネ性能は「あると望ましい付加価値」から、プロジェクトを進めるための「絶対条件」へと変わるのです。

この義務化は、床面積10m²以下の小規模な建物を除く、原則としてすべての新築住宅・非住宅に適用されます 。また、増改築を行う場合も、その増改築部分が基準に適合する必要があります

評価の軸となるのは、主に以下の2つの性能です。

  1. 外皮性能:建物の「皮膜」(壁、窓、屋根など)が、どれだけ熱の出入りを防ぐかという断熱性能。外皮平均熱貫流率(UA値)などの指標で評価されます 。
  2. 一次エネルギー消費量:建物内の設備(冷暖房、換気、照明、給湯)が消費するエネルギーの総量。BEI(Building Energy Index)という指標で評価されます 。

さらに、この法改正と連動して、木造小規模建築物における構造審査の一部を簡略化していた、いわゆる「4号特例」が縮小されます 。これにより、これまでよりも多くの建物で構造計算書や省エネ関連図書の提出が求められるようになり、専門家による構造設計や省エネ計算の重要性が一層高まります。

この一連の動きは、単なる規制強化ではありません。建築市場全体の品質基準を底上げする「市場の触媒」として機能します。最低限の省エネ性能が法的に必須となることで、低性能な建材や設計は新築市場から淘汰されます。結果として、より質の高い設計や施工が求められるようになり、私たちアルキテックのような、建築構造と建築環境の両面から高性能な設計を追求する専門家集団の知見が、特別なものではなく、すべての建築に不可欠な要素となっていくでしょう。

2. これからの家づくりの新常識「ZEH(ゼッチ)」とは?

2025年の省エネ基準義務化が「最低ライン」を定めるものであるのに対し、その先を見据えた「目指すべき基準」として注目されているのがZEHです。

2-1. ZEHの基本的な考え方:「使うエネルギー」≦「創るエネルギー」

ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略称です。簡単に言えば、年間のエネルギー消費量と、太陽光発電などで創り出すエネルギー量が差し引きで概ねゼロ以下になる住宅のことを指します

2025年に義務化された基準は「断熱等性能等級4」ですが、政府は2030年度以降に新築される住宅について、ZEH基準である「断熱等性能等級5」の水準を確保することを目指すとしています 。これは、ZEHがもはや特別な選択肢ではなく、未来の住宅における標準的な姿であることを示しています。

2-2. ZEHを支える3つの柱

ZEHは、以下の3つの要素を組み合わせることで実現されます。

  1. 高断熱:エネルギー消費を根本から減らすための最も重要な要素です。高性能な断熱材を壁や屋根に施工し、熱の出入りが最も大きい窓には複層ガラスや樹脂サッシなどを採用することで、魔法瓶のように家全体の断熱性能を高めます。これにより、最小限の冷暖房で一年中快適な室温を保つことができます 。
  2. 省エネ:必要なエネルギーを効率的に使うための工夫です。高効率なエアコンや給湯器(エコキュートなど)、LED照明といった省エネ性能の高い設備を導入します。また、HEMS(ヘムス)と呼ばれるエネルギー管理システムで、家庭内のエネルギー使用状況を「見える化」し、最適化することも含まれます 。
  3. 創エネ:自宅でクリーンなエネルギーを創り出すことです。主に屋根に設置した太陽光発電システムによって電力を生み出します 。

2-3. 施主にとっての大きなメリット

ZEH住宅は、施主にとって多くの具体的なメリットをもたらします。

  • 快適性と健康:高断熱な家は、夏涼しく冬暖かい、温度差の少ない室内環境を実現します。これにより、急激な温度変化によって起こるヒートショックのリスクを大幅に低減できます。また、結露の発生を抑えることで、カビやダニの繁殖を防ぎ、健康的な暮らしにつながります 。
  • 経済性:断熱性能の向上と省エネ設備の導入により、光熱費を大幅に削減できます。さらに、太陽光発電で余った電力は電力会社に売電することも可能で、家計の負担を大きく軽減します 。
  • レジリエンス(災害への強さ):太陽光発電システムと蓄電池を組み合わせることで、台風や地震による停電時でも、生活に必要な電力を確保できます。災害時にも安心して過ごせるという点は、大きな価値です 。
  • 資産価値:ZEHは、その高い性能が公的に認証されるため、将来的に売却する際にも有利な評価が期待でき、資産価値の維持・向上につながります 。

2-4. ZEHにも種類がある

ZEHには、立地条件やニーズに応じていくつかの種類があります。太陽光発電によるエネルギー削減率が100%以上の「ZEH」を基本に、日射条件が厳しい地域向けの「Nearly ZEH」(75%以上削減)、都市部の狭小地などで太陽光パネルの設置が難しい場合に断熱・省エネ性能を重視する「ZEH Oriented」など、柔軟な選択肢が用意されています 。さらに、より高い断熱性能や高度なエネルギー管理システムを導入した「ZEH+」という上位基準も存在します

3. 設計者と施主が直面する課題とチャンス

この大きな変化は、設計者と施主の双方に新たな課題と、それを乗り越えた先にあるチャンスをもたらします。

3-1. 設計者に求められること

設計者にとっては、専門性がより一層問われる時代になります。UA値やBEIといった複雑な省エネ計算、建築確認申請のための詳細な書類作成など、業務上の負担は確実に増加します

また、大きな窓や吹き抜けといった意匠デザインと、高い省エネ性能を両立させるには、高度な設計ノウハウが求められます 。しかし、これは裏を返せば、省エネ設計やZEHに関する深い知見を持つ設計者が、他との差別化を図り、市場での競争力を高める絶好の機会でもあります。環境意識の高い施主から選ばれるための、強力な武器となるでしょう

3-2. 施主が知っておくべきこと

施主にとって最も気になるのは、初期コストでしょう。高性能な断熱材や窓、高効率な設備、太陽光発電システムなどは、従来の建材・設備に比べて高価になりがちです

しかし、この初期投資は、長期的な視点で見ることが重要です。月々の光熱費が大幅に削減されることで、将来的に初期コストを回収できる可能性があります。一方で、太陽光発電のパワーコンディショナー(10〜15年で交換目安)など、将来的なメンテナンスコストも計画に含めておくことが賢明です

そして何より、この初期負担を軽減するために、国や自治体が手厚い支援制度を用意しています。2025年度も、「子育てエコホーム支援事業」や「戸建住宅ZEH化等支援事業」といった補助金制度が予定されており、ZEH水準の住宅には数十万から百万円以上の補助が期待できます 。また、住宅ローン減税においても、省エネ性能が高い住宅ほど控除額が大きくなる仕組みになっており、金銭的なメリットは大きいと言えます

これらの選択肢を総合的に理解するために、以下の比較表を参考にしてください。


表:住宅性能の比較:従来住宅 vs. 2025年基準適合住宅 vs. ZEH住宅

項目従来住宅(2025年以前)2025年基準適合住宅ZEH住宅
断熱性能基準なし(多くは等級4未満)義務:断熱等性能等級4より高い基準:断熱等性能等級5以上
エネルギー消費標準削減(一次エネ等級4適合)実質ゼロ(消費削減+エネルギー創出)
初期コスト基準やや高い高い(太陽光発電等を追加)
光熱費基準低減大幅に低減/収入の可能性も
快適性・健康標準向上非常に高い快適性と健康への貢献
資産価値標準向上高い長期的な価値が期待できる
補助金・税優遇限定的限定的(ローン減税の基本枠)充実した補助金と手厚い税優遇

4. 複雑な時代を乗り越える、専門家というパートナー

2025年からの新しい建築基準、特にZEHのような高性能住宅の実現は、単に良い材料を選ぶだけの単純な作業ではありません。構造、断熱、日射、換気、設備といった様々な要素が複雑に絡み合うため、すべての要素を統合的に計画する専門的な視点が不可欠です。

例えば、断熱性能を高めるために壁を厚くすれば、それは建物の構造や内部空間の広さに影響します。太陽光パネルを効率よく設置するには、屋根の形状や方角、そしてそれを支える構造計算が重要になります。このように、建築の「環境性能」と「構造性能」は、もはや切り離して考えることはできません。

この二つの領域を別々の専門家が担当すると、設計の途中で矛盾が生じ、手戻りやコスト増につながることも少なくありません。しかし、私たちアルキテックのように、建築構造と建築環境の両分野に精通した専門家が一体となって設計に取り組むことで、初期段階から最適化された、無駄のない計画を進めることが可能になります。

さらに、現代の高性能な建築設計において強力な武器となるのが「環境シミュレーション」です。これは、建物の設計データを基に、コンピュータ上で日当たりや風通し、室温の変化などを仮想的に検証する技術です

例えば、「温熱環境シミュレーション」を行えば、夏の日差しが室内を何度まで上昇させるか、冬にどの部分から熱が逃げやすいか、といったことを建設前に正確に予測できます 。また、「照度シミュレーション」を用いれば、自然光を最大限に活用し、日中でも照明に頼らなくて済む快適な空間を設計することが可能です

このようなデータに基づいたアプローチは、設計者や施主が確信を持って意思決定を下すための羅針盤となります。「これなら夏も快適に過ごせる」「この設計なら光熱費を抑えられる」といった具体的な根拠を示し、完成後の後悔を防ぎます。それは、法的な基準値をクリアするだけでなく、本当に「心地よい」と感じられる空間を創造するための、現代の建築技術なのです。

まとめ

2025年の省エネ基準適合義務化は、すべての新築プロジェクトに影響を与える、避けては通れない大きなルール変更です。そして、その先にあるZEHは、これからの時代における快適で、安全、かつ経済的な住まいの新しいスタンダードと言えるでしょう。

この変化は、設計者にとっては専門性を高める機会となり、施主にとってはより質の高い住まいを手に入れるチャンスとなります。初期コストや設計の複雑さといった課題はありますが、適切な知識と補助金制度の活用、そして何よりも信頼できる専門家との連携によって、十分に乗り越えることが可能です。

「とりあえずの基準」を満たすだけの時代は終わりました。これからの建築は、意匠の美しさや構造の強さに加え、いかに賢く、効率的で、持続可能であるかが問われます。私たちアルキテックは、建築構造・環境技術の専門家集団として、この新しい時代の要請に応え、皆様と共に快適でレジリエントな未来を築いていきたいと考えています。

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