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建築設備設計の仕事とは?

はじめに:あなたの知らない「設備設計」の世界へようこそ

「建築設計」と聞くと、多くの人が美しい建物の外観や、使いやすい間取りを考える「意匠設計」を思い浮かべるかもしれません。あるいは、地震に強い骨組みを計算する「構造設計」をイメージする人もいるでしょう。しかし、建物が本当に「生きている」場所であるためには、もう一つ、決して欠かすことのできない、非常に重要な仕事があります。それが、私たちアルキテックも専門とする「設備設計」です。

設備設計は、例えるなら建物の「内臓」や「神経」を創り出す仕事。目には見えないけれど、そこでの活動を支え、快適さを生み出す心臓部です。この記事では、そんな縁の下の力持ち、「設備設計」の仕事の奥深い世界を、できるだけ分かりやすく、そしてその魅力が伝わるようにご紹介していきます。

設計分野の役割まとめ

設計分野 人間での例え 主な役割
意匠設計 見た目・外見 美しさ、使いやすさ、空間のデザイン
構造設計 骨格 安全性、耐久性、災害への強さ
設備設計 内臓・神経 快適性、機能性、エネルギー効率

設備設計の具体的な中身をのぞいてみよう

では、具体的に「設備設計」とはどのようなものを設計しているのでしょうか。主な分野は以下の3つに分けられます。

空気のデザイン:「空調・換気設備」

人々が室内で快適に過ごすために最も重要な要素の一つが「空気」です。空調・換気設備の設計は、室内の温度、湿度、そして空気の清浄さをコントロールし、健康的で心地よい環境を創り出す仕事です。

  • 空調設備:夏は冷房で涼しく、冬は暖房で暖かく。建物の用途や人の数、窓からの日差しの量などを計算し、適切な能力を持つエアコンなどの機器を選定し、最適な場所に配置します。
  • 換気設備:室内の汚れた空気を排出し、新鮮な外気を取り入れます。特に多くの人が集まる場所や、気密性の高い現代の建物では、適切な換気計画がなければ二酸化炭素濃度が上昇し、人々の健康や集中力に影響を与えてしまいます。
  • 排煙設備:万が一の火災時に、煙を建物の外に排出し、人々が安全に避難するための時間を確保する、命を守るための重要な設備です。

光とエネルギーのデザイン:「電気設備」

現代の生活や仕事に欠かせない電気。電気設備の設計は、照明やコンセントといった身近なものから、建物全体のエネルギー供給、情報通信、防災システムまで、多岐にわたります。

  • 照明・コンセント設備:部屋の用途に合わせて十分な明るさを確保しつつ、デザイン性や省エネ性も考慮して照明器具を選び、配置します。また、PCや家電製品を使うためのコンセントを、利用者の動線を予測しながら計画します。
  • 受変電設備:電力会社から送られてくる高圧の電気を、建物内で使えるように低い電圧に変換するための設備です。建物の規模が大きくなるほど、この設備の計画は重要になります。
  • 通信・情報設備:インターネットを使うためのLAN配線やWi-Fi環境、電話線、テレビアンテナなど、現代のコミュニケーションを支えるインフラを設計します。
  • 防災・防犯設備:火災を知らせる自動火災報知設備や、侵入者を検知するセキュリティシステムなど、人々の安全を守るための設備も電気設備設計の重要な役割です。

水のデザイン:「給排水衛生設備」

キッチンやトイレ、お風呂など、私たちが毎日使う「水」。給排水衛生設備の設計は、きれいで安全な水を必要な場所に届け、使い終わった水を適切に排出するための、いわば建物の「血管」と「消化器系」を計画する仕事です。

  • 給水・給湯設備:水道管から引き込んだ水を、キッチンやお風呂、洗面所などへ供給します。高層ビルの上階まで十分な水圧で水を届けるためのポンプ計画や、いつでもお湯が使えるようにするための給湯器の選定も行います。
  • 排水設備:使った後の汚れた水(排水)や雨水を、下水道までスムーズに流すための配管ルートを設計します。排水管の詰まりや悪臭、逆流などを防ぐための緻密な計算が求められます。
  • ガス設備:キッチンコンロやお湯を沸かす給湯器に、都市ガスやプロパンガスを安全に供給するための配管を設計します。
  • 消火設備:スプリンクラーや消火栓など、火災の初期消火を行うための設備もこの分野に含まれます。

これらの設備設計において近年、非常に重要視されているのが「ライフサイクルコスト(LCC)」という考え方です。これは、建物を建てる時の初期費用(イニシャルコスト)だけでなく、完成後の光熱費やメンテナンス費、将来の修繕費まで含めた、建物の生涯にかかる総コストを指します。例えば、初期費用が多少高くても、エネルギー効率が非常に高い空調システムを導入すれば、数十年にわたる電気代を大幅に削減でき、結果的にLCCは安くなる場合があります。設備設計者は、単に機器を配置するだけでなく、こうした長期的な視点から建物の価値を最大化する提案を行う、建物の資産価値を左右する重要なパートナーでもあるのです。

構想から完成、そして未来へ:設備設計の旅

設備設計者の仕事は、単に図面を描くだけではありません。お客様の想いを形にするための対話から始まり、建物がその役目を終えるまで、非常に長い期間にわたって続きます。その道のりは、さながら一つの壮大な旅のようです。

Phase 1: 対話の始まり(企画・基本設計)

旅の始まりは、お客様との対話です。「どのような空間にしたいか」「どんな風に過ごしたいか」といった夢や要望を丁寧にヒアリングします。同時に、建設予定地の調査を行い、電気、ガス、水道といったインフラがどこまで来ているかを確認します。この段階で、大まかな設備計画の方向性を定め、概算のコストを算出します。お客様の夢と現実の条件をすり合わせ、実現可能な計画の第一歩を踏み出す、最も重要なフェーズです。

Phase 2: パズルを解く(実施設計)

基本設計で固まった方針を、具体的な図面に落とし込んでいくのが実施設計です。ここでの仕事は、まるで複雑な三次元パズルを解くようなもの。各種計算を行って機器の性能を決定し、無数に張り巡らされる配管や配線、ダクトのルートをミリ単位で設計していきます。意匠設計者や構造設計者と何度も協議を重ね、「デザインを損なわないか」「構造体に干渉しないか」といった課題を一つひとつクリアにしながら、すべての設備が完璧に収まる最適解を見つけ出します。

Phase 3: オーケストラの指揮者(工事監理)

図面が完成すると、いよいよ建設工事が始まります。設備設計者は現場に足を運び、図面通りに工事が進んでいるかをチェックする「工事監理」を行います。現場では、予期せぬ問題が発生することも少なくありません。その際には、設計の意図を施工者に正確に伝え、解決策を共に考えます。様々な専門業者や職人が関わる建設現場において、設備設計者はまるでオーケストラの指揮者のように、設計という楽譜をもとに、最高のハーモニー(=建物)を奏でるためにタクトを振るのです。

Phase 4: 成長を見守る(運用・改修)

建物が完成し、お客様に引き渡された後も、設備設計者の旅は終わりません。実際に使われる中で生じた不具合への対応や、数年後、数十年後のメンテナンス、より省エネ性能の高い機器への更新、家族構成の変化に伴うリフォームなど、建物がその一生を終えるまで、良きパートナーとして寄り添い続けます。このように、建物のライフサイクル全体に関わり、その価値を長期にわたって維持・向上させていくことも、設備設計者の大切な役割なのです。

図面だけじゃない:設備設計のやりがいと未来

設備設計は、緻密な計算や調整が求められる専門性の高い仕事ですが、それ以上に大きなやりがいと未来への可能性に満ちています。

最大のやりがいは、やはり自分の仕事が人々の快適で豊かな暮らしに直結していると実感できることでしょう。自分が設計に携わったオフィスで人々が生き生きと働き、設計した住宅で家族が笑顔で暮らす。その光景は、何物にも代えがたい喜びと誇りをもたらしてくれます。目には見えないけれど、確かに社会に貢献しているという手応えが、この仕事の大きな魅力です。

また、設備設計は建築業界の中でも特に技術革新が著しい分野です。近年では、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と呼ばれる3次元モデルを使って設計を行う手法が主流になりつつあります。BIMを使えば、設計段階で配管の干渉などを事前に発見でき、設計ミスを減らせるだけでなく、お客様にも完成形を直感的に理解してもらいやすくなります。

さらに、地球環境への配慮が求められる現代において、設備設計の役割はますます重要になっています。太陽光発電や高効率な断熱材、AIによるエネルギー管理システムなどを組み合わせ、消費エネルギーを実質ゼロにする「ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」のような、環境負荷の少ない建物を実現するためには、設備設計の知識と技術が不可欠です。建築の意匠がサステナブルな建物の「思想」を形作るとすれば、それを物理的・数学的に実現する「エンジン」の役割を担うのが設備設計なのです。未来の地球環境を考え、次世代のための建築を創造していく。そんな大きな使命も、この仕事のやりがいと言えるでしょう。

アルキテックの哲学:強い骨格には、健やかな身体が必要だ

私たちアルキテック株式会社は、「建築構造・環境技術の専門家集団」として、誠実で創意工夫を凝らした設計と技術コンサルティングをお約束しています。

私たちの核となる専門分野は、建物の安全性を司る「構造設計」です。しかし、私たちは、どれだけ強靭な骨格(構造)を持っていても、それだけでは真に価値のある建物にはならないと考えています。その骨格の中に、健やかで活発に機能する身体(環境・設備)が伴って初めて、建物は人々にとって快適で、長く愛される場所になるのです。

安全であること(構造)と、快適であること(環境・設備)。この二つは、車の両輪のようなものです。私たちの強みは、この両方の分野に深い知見を持っていることにあります。構造を理解しているからこそ、設備の性能を最大限に引き出すための最適なスペースの確保や、構造体に影響を与えない配管ルートを初期段階から提案できます。逆に、環境・設備の知識があるからこそ、将来のメンテナンス性まで見越した合理的な構造計画を立案できるのです。

このように、専門分野が細分化されがちな建築業界において、構造と環境の両面から統合的にアプローチできること。それこそが、より安全で、より快適で、より資産価値の高い建物を生み出すためのアルキテックの哲学であり、お客様に提供できる最大の価値だと信じています。

未来は「設計」される

設備設計は、建物の舞台裏で、人々の暮らしの「当たり前」を創造する仕事です。それは時に複雑で、地道な作業の連続かもしれません。しかし、その先には、人々の笑顔と快適な毎日、そして持続可能な社会の実現という、大きな未来が広がっています。

これからの建築は、意匠、構造、設備がこれまで以上にシームレスに融合し、一つの生命体として機能することが求められます。美しく、強く、そして賢く、環境と共生する。そんな未来の建物を創り出すために、私たちアルキテックはこれからも挑戦を続けていきます。

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