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建築構造とは?

建築構造とは?生命と財産を守る「建物の骨格」を専門家が徹底解説

なぜ、「構造」が建築のすべてを決定するのか?

建築について考えるとき、多くの人々がまず心に思い描くのは、その美しい外観や、機能的で心地よい間取りかもしれません。しかし、それらすべてを影で支え、存在を可能にしている最も根源的な要素があります。それが「建築構造」です。

建築構造は、しばしば人体の「骨格」に例えられます。骨格がなければ、私たちは立つことも、動くことも、外部の衝撃から身を守ることもできません。同様に、建築物もまた、柱や梁、壁、基礎といった構造体がしっかりと大地に根差し、骨組みを形成して初めて、その形を保ち、人々が安全に活動するための空間を提供できるのです。どんなに洗練されたデザイン(意匠設計)や、最新鋭の空調・電気設備(設備設計)も、それを支える堅牢な構造なくしては、文字通り絵に描いた餅に過ぎません。構造は、建築という交響曲を奏でるための、静かで力強い通奏低音なのです。

私たちアルキテック株式会社は、この「建物の骨格」を創り上げる構造設計の専門家集団です。この記事では、建築構造という、普段は目に見えないながらも私たちの安全と財産を根底から支える重要な世界を、基礎的な概念から専門家が日々向き合う複雑な判断まで、体系的に、そして深く掘り下げて解説します。これから家を建てようとお考えの方、不動産開発に携わる方、あるいは純粋に建築の世界に興味をお持ちの方々が、建物の本質的な価値を理解するための一助となれば幸いです。

第1章: 建築構造の核心 — 「器」としての役割と使命

建築構造の定義:単なる骨組みを超えて

建築構造とは、単に柱や梁の集合体を指す言葉ではありません。それは、目的とする建築物を構成するための方法論であり、力学的な仕組みの総体です。言い換えれば、建物に作用する様々な力(荷重)が、どのように部材を伝わり、最終的に大地へと安全に流れていくか、その「力の流れ」を計画し、具現化するシステム全体を指します。私たちが生活し、活動する空間を安全に内包するための「器(うつわ)」、それが建築構造の本質です。

このシステムには、骨組みの形式、使用する材料の特性、部材同士の接合方法、そしてそれらが立つ地盤の性質まで、すべてが含まれます。例えば、同じ設計図の建物であっても、軟弱な地盤の上に建てる場合と、強固な岩盤の上に建てる場合とでは、基礎の設計、ひいては上部構造の計画も根本から変わってきます。建物の構造は、それが立つ大地と一体不可分のシステムとして捉えられなければなりません。地盤の強度、すなわち「地耐力」は、構造計画の出発点であり、どんなに優れた上部構造も、それを支える足元が脆弱であれば意味をなさないのです。したがって、真の建築構造は、地面の下から始まっていると言っても過言ではありません。

構造の至上命題:生命・健康・財産の保護

では、建築構造の究極的な目的とは何でしょうか。それは、建築基準法の第一条にも明記されている通り、「国民の生命、健康及び財産の保護」です。これは、構造設計者が決して忘れてはならない、絶対的な使命です。

建物は、常に地球の重力に引かれ続けています。それに加え、時に自然界は、私たちの想像を超える力で襲いかかってきます。建築構造の役割は、こうした内外からの力に対して建物が崩壊・倒壊することなく、その形を保ち続けることにあります。人々が安心して眠り、働き、憩うことができるシェルターとして、地上や地下に安全に存在し続けるための基盤、それが建築構造なのです。

日本という文脈における構造の重要性

特に、日本という国において建築構造が持つ意味は、他国と比較しても極めて重いものがあります。日本は、世界有数の地震多発国であり、毎年多くの台風に見舞われる国でもあります。阪神・淡路大震災や東日本大震災といった過去の巨大地震は、建物の構造性能が人々の生死を直接分けるという厳然たる事実を、私たちに突きつけました。

このような厳しい自然環境下において、建築構造の設計は、単なる工学的な作業にとどまりません。それは、社会的な責任を伴う、極めて重要な営為となります。日本では、建物の構造的な安全性は「付加価値」ではなく、存在するための「必須条件」なのです。この文脈を深く理解し、常に最悪の事態を想定しながら、安全性の高い構造を追求し続けることこそ、日本の構造設計者に課せられた責務です。

第2章: 建物が耐え忍ぶ「見えざる力」— 荷重の全貌

建物は、完成したその瞬間から、その寿命を終えるまで、絶えず様々な「見えざる力」と戦い続けています。この力を建築の世界では「荷重(かじゅう)」と呼びます。構造設計とは、これらの荷重を正確に予測し、建物がそれに安全に抵抗できる骨組みを設計するプロセスです。荷重は、その作用する時間の長さによって、大きく二つのカテゴリーに分類されます。

長期荷重:常に作用し続ける力

長期荷重とは、建物の存在期間中、常に、あるいはほぼ常に作用し続ける力のことです。主に重力によって生じる、鉛直(下向き)の力です。

固定荷重(Dead Load)

固定荷重とは、建物そのものの重さ(自重)のことです。柱、梁、床、壁といった構造体はもちろん、屋根材、外壁、窓、内装仕上げ、さらには固定された設備機器(キッチン、ユニットバス、空調機など)の重量がこれに含まれます。この荷重は、一度建てられると変化することがない、文字通り「固定」された力です。構造設計の最も基本的な計算は、まずこの自重を建物自身が支えられるようにすることから始まります。

積載荷重(Live Load)

積載荷重は、建物の中に置かれる、移動可能なものの重さを指します。具体的には、居住者や利用者といった「人」、机や椅子、棚などの「家具」、書籍や衣類、その他の「物品」の重量が含まれます。この荷重は、時間や使い方によって変動するため、予測が難しい側面があります。そのため、建築基準法では、建物の用途(住宅、事務所、店舗、倉庫など)に応じて、安全側に見込んだ標準的な値を定めています。例えば、不特定多数の人が集まる商業施設や、重い書架が並ぶ図書館では、一般の住宅よりもはるかに大きな積載荷重を想定して設計する必要があります。

短期荷重:時として襲いかかる強大な力

短期荷重とは、日常的には作用しないものの、一度発生すると建物に甚大な影響を及ぼす可能性のある、一時的な力です。主に自然現象によって引き起こされます。

地震力(Seismic Force)

地震力は、地震の揺れによって建物に作用する水平方向の力です。地面が左右に揺れると、その上に立つ建物は慣性の法則によってその場に留まろうとし、結果として足元から強力な力を受けることになります。地震力の大きさは、建物の「重さ」に比例するという極めて重要な特徴があります。つまり、同じ揺れであれば、重い建物ほど大きな地震力を受け、軽い建物ほど受ける力は小さくなります。この原則は、耐震設計の根幹をなす考え方です。

風圧力(Wind Pressure)

風圧力は、台風などの強風が建物に当たることによって生じる力です。風が当たる面(風上側)には押す力が、風が通り過ぎる面(風下側や屋根)には吸い出す力が作用します。風圧力の大きさは、建物の「高さ」や「形状」、「立地」に大きく影響されます。一般的に、建物が高くなるほど、また周囲に風を遮るものがない開けた場所に立つほど、風圧力は増大します。地震力とは対照的に、風圧力は建物の重さとは直接関係ありません。

積雪荷重(Snow Load)

積雪荷重は、屋根の上に降り積もった雪の重さによる、下向きの力です。特に日本の豪雪地帯では、この荷重が建物の設計を左右する最も重要な要素の一つとなります。雪は、新雪か、あるいは水分を含んだ湿った雪かによってその単位重量が大きく異なるため、地域の実情に合わせて安全な値を設定する必要があります。

力の伝達経路(ロードパス)という思想

構造設計の核心は、これらすべての長期・短期荷重を、屋根や床から受け止め、梁、柱、壁といった部材を通して、最終的に「基礎」へと伝え、そして「地盤」へと安全に流すための、明確で効率的な「力の伝達経路(ロードパス)」を構築することにあります。この経路のどこか一か所でも弱点があれば、建物全体の安全性が脅かされます。

ここで、専門家が直面する設計上のジレンマが浮かび上がります。前述の通り、地震力は建物の重さに比例するため、耐震性を高めるには建物を軽くすることが有効です。しかし、建物を軽くすると、今度は風圧力や、風による揺れに対して不利になる場合があります。逆に、風に耐えるために建物を重く、剛強にすると、地震の際にはより大きな力を呼び込んでしまいます。このように、地震力と風圧力への対策は、時として相反する要求を生み出します。このトレードオフを、建物の規模、形状、そして建設地の地域特性(地震が多い地域か、台風の通り道か)を総合的に判断し、最適なバランス点を見つけ出すことこそ、構造設計者の経験と知見が最も問われる部分なのです。

第3章: 構造を形作る四大素材 — 木、鉄、コンクリートの特性

建物の骨格を形成する材料は、それぞれが独自の個性を持っています。構造設計者は、これらの材料の長所と短所を深く理解し、建築計画の目的や条件に最も適したものを選定します。ここでは、現代建築で主に使用される4つの構造材料について解説します。

この材料選定は、単なる技術的な選択にとどまりません。それは、プロジェクト全体の方向性を決定づける戦略的な判断です。なぜなら、選ばれた材料は、建物の安全性やコストはもちろんのこと、デザインの可能性(例えば、鉄骨が可能にする柱の少ない大空間)、工期(例えば、コンクリートの養生期間がもたらす影響)、さらには完成後の維持管理(例えば、木材の定期的なメンテナンス)に至るまで、あらゆる側面に波及効果をもたらすからです。優れた構造設計者は、こうした二次的、三次的な影響まで見据え、建築主や意匠設計者に対して最適な提案を行います。

木造(W造: Wood)

日本の伝統的な建築を支えてきた、最も身近な構造材料です。

  • 長所: 比較的軽量でありながら、その重量に対する強度(比強度)が高いという特徴があります。加工が容易で、現場での調整にも柔軟に対応できます。また、木材が持つ調湿性により、室内の湿度をある程度一定に保つ効果も期待でき、日本の気候に適しています。小規模な戸建て住宅などでは、他の構造に比べてコストを抑えやすい傾向にあります。
  • 短所: 主な弱点は、燃えやすいこと、そして湿気による腐朽やシロアリの被害を受けやすいことです。また、天然素材であるため、強度にばらつきが生じやすいという側面もあります。これらの弱点を克服するため、近年では防耐火技術や防腐・防蟻処理技術が大きく進歩していますが、大規模・高層建築には不向きとされてきました。

鉄骨造(S造: Steel)

高層ビルや大スパン構造(体育館、工場など)で主役となる、強靭な材料です。

  • 長所: 強度が非常に高く、品質が均一であることが最大の利点です。部材は工場で精密に生産されるため、安定した性能が期待できます。また、軽くて強い「しなやかさ(靭性)」を持つため、地震のエネルギーを吸収する能力に優れています。柱や梁の断面を比較的小さくできるため、柱の少ない広々とした空間や、大きな窓を持つ開放的なデザインを実現しやすいという建築的なメリットもあります。
  • 短所: 鉄は熱に弱く、550℃前後で急激に強度が低下するため、火災時に建物の崩壊を防ぐための耐火被覆が不可欠です。また、錆による腐食を防ぐための防錆処理も重要となります。RC造に比べると、音や振動が伝わりやすい傾向があります。

鉄筋コンクリート造(RC造: Reinforced Concrete)

コンクリートと鉄筋という、二つの異なる材料の長所を組み合わせた複合構造です。

  • 長所: コンクリートは圧縮される力に非常に強い一方、引っ張られる力には弱いという特性があります。逆に、鉄筋は引っ張る力に強いです。この二つを組み合わせることで、圧縮力にも引張力にも強い、極めて頑丈な構造体が生まれます。耐火性、耐久性、遮音性に非常に優れており、気密性も高いため、マンションなどで広く採用されています。型枠次第で自由な形状をつくれるため、設計の自由度も高いです。
  • 短所: 非常に重いことが最大のデメリットです。建物の自重が大きくなるため、それを支えるための強固な地盤や基礎が必要となり、地震の際には大きな地震力を受けることになります。また、現場でコンクリートを打ち固めるため、その品質が天候や職人の技術に左右されやすい側面があります。コンクリートが固まるまでの養生期間が必要なため、工期が長くなる傾向もあります。

鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造: Steel Reinforced Concrete)

鉄骨造(S造)と鉄筋コンクリート造(RC造)を一体化させた、いわば究極のハイブリッド構造です。

  • 長所: 鉄骨の骨組みの周りに鉄筋を配し、コンクリートを打ち込むことで、鉄骨の「しなやかさ」とRC造の「剛性・耐火性」を両立させています。RC造よりもさらに強靭で粘り強い構造となるため、超高層ビルや大規模な建築物で採用されます。RC造に比べて柱や梁を細くできるため、より有効な室内空間を確保できるという利点もあります。
  • 短所: 構造が非常に複雑で、建設に多くの手間と高度な技術を要するため、4つの構造の中で最も建設コストが高くなります。

第4章: 力の流れを設計する — 主要な構造形式(システム)

優れた材料を選んだだけでは、安全な建物は完成しません。それらの材料をどのように組み合わせ、力の流れをどのように制御するかという「構造形式(構造システム)」の選択が、同じく重要となります。構造形式は、いわば料理におけるレシピのようなもので、材料の特性を最大限に引き出すための骨格の作り方を定めます。ここでは、代表的な構造形式を解説します。

構造形式の選択は、しばしば「構造的な効率性」と「建築的な自由度」の間のトレードオフを伴います。最も直接的で効率よく力に抵抗できるシステムは、時として間取りや開口部の設計に大きな制約をもたらします。逆に、自由度の高いシステムは、その分、部材を大きくしたり、より複雑な設計を要したりします。構造設計者の重要な役割の一つは、意匠設計者と対話を重ね、建築的なビジョンを損なうことなく、安全で合理的な構造システムを構築することです。時には、異なる形式の長所を組み合わせたハイブリッドな解決策(例えば、後述の「耐震壁付ラーメン構造」)を考案することも求められます。

柱梁構造(フレーム構造)

柱と梁で骨格を形成し、建物を支える最も一般的な形式です。力の伝達方法によって、さらにいくつかの種類に分かれます。

ラーメン構造(剛接合架構)

ドイツ語で「骨組み」を意味する “Rahmen” に由来します。柱と梁の接合部を溶接や高力ボルトでガチガチに固める(剛接合)ことで、地震や風などの水平力に骨組み全体の「曲げ」で抵抗する構造です。最大の特長は、耐力壁が少なくても構造が成立するため、間取りの自由度が非常に高いことです。大きな窓を設けたり、将来的なリフォームで間仕切り壁を変更したりすることも比較的容易です。中高層のオフィスビルやマンションで広く採用されています。

ブレース構造(筋かい構造)

柱と梁で構成された四角形のフレームの中に、斜め材(ブレース、または筋かい)を配置し、三角形のユニットを形成する構造です。三角形は形が崩れにくい最も安定した図形であり、この原理を利用して水平力に非常に効率よく抵抗します。ラーメン構造に比べて部材を小さくできるため経済的ですが、ブレースが壁の中に配置されるため、窓や出入口の設置に制約が生じます。体育館、工場、倉庫、商業施設などでよく見られます。

トラス構造

ブレース構造の考え方をさらに発展させ、すべての部材を三角形の集合体として構成した形式です。部材には曲げる力がかからず、引っ張る力(張力)か押す力(圧縮力)しか作用しないため、材料を極めて効率的に使用できます。これにより、柱のない非常に広大な空間(大スパン空間)を軽い構造で実現することが可能です。ドーム球場や体育館の屋根、橋梁などに用いられる、ダイナミックで美しい構造形式です。

壁構造

柱や梁の代わりに、「壁」そのもので建物を支える形式です。

壁式構造

柱や梁といった線材ではなく、鉄筋コンクリートの壁という「面材」で床を支え、箱(ボックス)を積み重ねるようにして建物を構成します。建物全体が一体化した強固な箱のようになるため、地震力に対して非常に高い抵抗力を発揮します。室内に柱や梁の出っ張りがない、すっきりとした空間が作れるのもメリットです。ただし、構造を支える壁(耐力壁)は動かせず、大きな開口部を設けることにも制限があるため、プランニングの自由度は低くなります。主に5階建て以下の低層マンションで採用されています。

曲面構造

薄い板状の部材を曲面にすることで、強度を得る特殊な形式です。

シェル構造

卵の殻のように、薄い曲面板で構成された構造です。外から力が加わると、その力は曲面に沿ってスムーズに分散され、面内力として伝達されます。そのため、非常に薄い部材でありながら、驚くほどの強度と剛性を発揮します。ユニークで象徴的なデザインの建築物を実現することが可能です。

第5章: 最適な選択のための徹底比較 — 構造種別による性能とコスト

これまで解説してきた「材料」と「形式」の知識を統合し、建築プロジェクトで最も一般的に検討される4つの主要構造(木造、鉄骨造、RC造、SRC造)について、性能とコストの観点から総合的に比較します。この表は、それぞれの構造が持つ特性とトレードオフを一目で理解し、ご自身の計画にとって何が最適かを判断するための一助となるでしょう。

項目木造 (W)鉄骨造 (S)鉄筋コンクリート造 (RC)鉄骨鉄筋コンクリート造 (SRC)
設計自由度△ (制約あり)◎ (大空間・大開口が得意)〇 (形状の自由度は高い)◎ (RCより柱・梁を細くできる)
耐震性〇 (軽量で粘り強い)〇 (しなやかさで揺れを吸収)◎ (剛性が高く揺れにくい)◎ (剛性と靭性を両立)
耐火性△ (燃えやすい)△ (熱で強度が低下)◎ (材料自体が不燃)◎ (RCの特性を引き継ぐ)
遮音性△ (音が伝わりやすい)△ (振動・音が伝わりやすい)◎ (重量と密度で音を遮断)◎ (RCの特性を引き継ぐ)
耐久性△ (腐朽・害虫対策が必須)〇 (防錆処理が重要)◎ (非常に高い耐久性)◎ (極めて高い耐久性)
法定耐用年数 (住宅用)22年19年~34年47年47年
建築コスト (相対比較)$$$$$$$$$$
主な用途戸建て住宅、アパート戸建て、店舗、工場、中層ビル中低層マンション、ビル高層・超高層マンション、ビル

補足事項:

  • 法定耐用年数について: 上記の年数は、税法上の減価償却計算に用いられる基準であり、建物の物理的な寿命(実際に住めなくなるまでの期間)を示すものではありません。適切な維持管理を行えば、法定耐用年数を大幅に超えて建物を使い続けることは十分に可能です。
  • 建築コストについて: コストは建物の規模、形状、仕様、建設地の状況によって大きく変動するため、あくまで一般的な傾向を示すものです。近年、資材価格や人件費の高騰により、すべての構造で建築コストは上昇傾向にあります。
  • 鉄骨造の耐用年数: 鉄骨造の法定耐用年数は、使用する鋼材の厚みによって変動します。

この比較表からわかるように、完璧な構造というものは存在しません。例えば、RC造やSRC造は耐火性や遮音性といった居住性能に優れますが、その分コストは高くなります。一方で木造はコストを抑えられますが、耐久性や遮音性の面では他の構造に劣ります。鉄骨造は設計の自由度が高いという魅力がありますが、耐火性や遮音性には配慮が必要です。どの構造を選択するかは、建築主が何を最も重視するのか(コスト、デザイン、居住性、資産価値など)によって決まります。私たち専門家は、その優先順位を明確にし、それぞれの選択肢がもたらすメリットとデメリットを丁寧に説明することで、最適な意思決定をサポートします。

第6章: 安全性の守護者 — 構造設計者の役割と責任

建物の設計は、大きく分けて3つの専門分野の協業によって成り立っています。

  1. 意匠設計: 建物の外観デザイン、間取り、空間の使いやすさなど、美しさと機能性を追求する分野。
  2. 設備設計: 空調、換気、給排水、電気、照明など、建物内の快適性と機能性を支える「神経」や「血管」を計画する分野。
  3. 構造設計: これら意匠・設備の計画を、物理的に成立させ、地震や台風といった外力から建物を守る「骨格」を創り上げる分野。

この中で、構造設計者の役割は、しばしば誤解されがちです。

「構造設計」と「構造計算」は違う

一般的に、「構造設計」と「構造計算」は同義だと思われがちですが、専門家の間では明確に区別されます。この違いを理解することは、構造設計者の真の役割を把握する上で非常に重要です。

  • 構造計算 (Structural Calculation): これは、構造設計のプロセスにおける「検証」のステップです。具体的には、計画された骨組みに対して、想定される様々な荷重(自重、地震力、風圧力など)を作用させ、部材に生じる力や変形が許容範囲内に収まっているかを、数学と物理学の法則に基づいて数値的に確認する作業です。現代では専用のコンピュータソフトウェアを用いて行われ、建築基準法などの法令に適合していることを証明するために不可欠な工程です。しかし、これはあくまで「答え合わせ」に過ぎません。
  • 構造設計 (Structural Design): こちらは、構造計算に至る前の、より創造的で、包括的な「構想」のプロセスです。どのような構造システム(ラーメン、壁式など)を採用するのが最も合理的か。どの材料(木、鉄、コンクリート)を使うのが最適か。意匠設計者が描くデザインを、いかにして安全かつ経済的に実現するか。建設のしやすさ(施工性)はどうか。こうした無数の選択肢の中から、プロジェクト全体の条件を俯瞰し、最適な骨組みをゼロから考え出す、総合的な思考行為です。それは、科学的知見と工学的判断、そして豊かな経験に裏打ちされた「創造と分析の繰り返し」なのです。

責任の重さ:法律の先にある「安心」を追求する

構造設計者の仕事は、人々の生命に直結するため、極めて重い責任を伴います。建築基準法をはじめとする各種法令を遵守することは、当然の義務です。しかし、法律はあくまで社会が合意した「最低限の基準」を定めているに過ぎません。真のプロフェッショナルは、法律を守るだけでなく、その先にある本質的な安全性、すなわち利用者が心から「安心」できる水準を目指します。

この「安心」を実現するため、現代の構造設計者の役割は、かつてのように意匠設計の完了後に図面を受け取って計算するだけの「後工程の技術者」ではなくなっています。プロジェクトの非常に早い段階から計画に参加し、意匠設計者や設備設計者と緊密に連携する「戦略的パートナー」へと進化しているのです。

意匠設計者が「柱のない、開放的なリビングが欲しい」と望めば、構造設計者は「できません」と答えるのではなく、「では、この部分に特殊な梁を使い、あちらの壁を構造的に強化することで実現しましょう」と代替案を提案します。設備設計者が大きなダクトを通したいと言えば、梁に穴を開けても安全性が損なわれない方法を検討します。このように、他分野の専門家と積極的にコミュニケーションをとり、技術的な課題を解決しながら、チーム全体で建築の品質を高めていく。そのために、数学や物理学の知識はもちろんのこと、高いコミュニケーション能力、柔軟な発想力、そして何よりも人々の安全を預かるという揺ぎない責任感が求められるのです。

結論: 未来を支える建築構造へ

本稿では、「建築構造」というテーマについて、その基本的な定義から、建物に作用する力、主要な材料とシステム、そしてそれらを統合して安全な骨格を創り上げる構造設計者の役割まで、多角的に解説してきました。

要点を振り返ると、以下のようになります。

  • 建築構造は、生命と財産を守るための「骨格」であり、建物と大地が一体となったシステムである。
  • 建物は、重力による長期的な力と、地震や風といった短期的な力の両方に耐えなければならない。
  • 木、鉄、コンクリートといった材料、そしてラーメン構造や壁式構造といったシステムには、それぞれ一長一短があり、目的と条件に応じた最適な選択が求められる。
  • 構造設計者の役割は、単なる計算に留まらず、安全性、経済性、意匠性、施工性といった多様な要素を統合し、最適な解決策を創造する、責任ある専門業務である。

私たちが日々を過ごす建築物の壁や天井の向こうには、こうした無数の力が作用し、それに対抗するための緻密な計算と、深い洞察に基づいた設計が隠されています。優れた構造設計は、完成後には目に見えることのない、静かなる投資です。しかし、その品質こそが、建物の安全性、耐久性、そして長期的な資産価値のすべてを支える礎となるのです。

私たちアルキテック株式会社は、卓越した構造設計とは、科学的な厳密さ、創造的な問題解決能力、そして公共の安全に対する深い責任感の融合であると信じています。私たちはただ計算するだけではありません。建築主、意匠設計者と深く対話し、協働し、革新することで、今日だけでなく、次の世代にも受け継がれる、真に強靭で安心な社会基盤を築き上げることを目指しています。

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