「予算がオーバーしたから、構造でコストダウン(CD)案を出してほしい」
建築プロジェクトにおいて、構造設計者は幾度となくこの言葉を投げかけられてきたのではないでしょうか。しかし、ただ単に仕様を落としたり、安全率を削ったりすることは、本来のバリューエンジニアリング(VE)とは呼べません。
真の経済設計とは、力学と設計基準への深い理解に基づき、無駄を削ぎ落として「建築の価値」を最大化することにあります。
今回は、意匠設計と構造設計が協働して生み出す「真のコストコントロール」について、RC造・鉄骨造・基礎の3つの視点から深掘りします。
1. RC造の最適解:「型枠」のコントロールと配筋の妙
RC造の上部構造躯体コストにおいて、実は最も大きなウエイトを占めるのはコンクリートや鉄筋ではなく、約40〜50%を占める「型枠工事」です。つまり、型枠面積を減らすアプローチが最も効果的なVEとなります。
- 壁の削減と耐震壁の積極利用:
型枠数量の約半分は「壁」が占めています。非耐力壁を乾式壁に変更する、あるいは梁せいを抑えて階高を下げることで、壁の面積を減らせます。一方で、耐震壁は意匠上の許容範囲で積極的に利用すべきです。耐震壁があることで、大梁のせいを大幅に抑えることが可能になります。 - 「計算外配筋」の盲点:
慣例的に決めている最低配筋を見直すだけで、大きなコスト削減に繋がります。壁厚200mmまでは、RC規準の最低配筋(Pw=0.25%以上)を満たす「D10@250」をスタートラインとするだけでコストダウンができます。 - スラブ配筋の増やし方:
スラブの主筋方向(短辺)の上端筋を増やす際、下端筋は上端筋の「倍ピッチ」の組み合わせ(例:上端D13@125、下端D13@250)を使用すると、施工性も良く経済的です。
2. 鉄骨造の最適解:「スパン」の罠と部材選定の鉄則
鉄骨造のコストダウンは、極めてシンプルに言えば「鋼材重量を減らすこと」に尽きます。しかし、そのアプローチには陥りがちな罠が存在します。
- 柱を抜くとコストは上がる:
「柱を減らせば安くなる」という誤解がありますが、鉄骨総重量の約80%は「梁」が占めています。スパンを飛ばせば梁の負担が急増し、総重量(コスト)は確実に上がります。効率的な架構を目指すなら、適切な柱配置でスパンを決定するのが鉄則です。また、ブレース構造を採用できれば、ラーメン構造と比較して主架構の数量を大きく減らすことができます。 - H形鋼と角形鋼管の選び方:
梁は、中幅H形鋼よりも断面性能に対して軽量な「細幅H形鋼」を原則とします。柱の角形鋼管は、肉厚を厚くするよりも「外径を大きくする」方が経済的であり、肉厚を上げていくのは経済的ではないことを認識する必要があります。
3. 基礎の最適解:見えない「土工事」を制する
基礎工事が高額になる最大の理由は、躯体そのもの以上に「土工事(掘削、埋戻し、残土処分)」や「山留め工事」に膨大なコストがかかるためです。地下の最適解は、徹底した「減量」にあります。
- 根切り深さの最小化:
基礎の根入れを浅くすることが、基礎コスト削減の絶対条件です。そのためには、地中梁せいを限界まで小さくする緻密な設計が求められます。 - 杭本数とコストの真実:
上部構造の柱を減らして杭の本数を減らしても、建物の総重量が変わらない以上、必要な杭の総断面積(=杭の体積)は同じです。場所打ち杭のコストは約70%が「体積」に依存するため、これではコストは下がりません。むしろ、スパンが飛ぶことで生じる杭への偏心応力や杭頭曲げ応力により、地中梁が大きくなりコスト増を招くケースすらあります。 - 場所打ち杭の体積を削る:
拡頭・拡底を多用する、コンクリート強度を上げて軸部断面積を絞るなど、徹底的に「杭の体積」を減らすアプローチが有効です。
構造設計はプロジェクトの価値を左右する
コストオーバーが発生した際、構造を「ただ安くする」ためだけの表面的な変更(CD)に走るのではなく、構造架構そのものの合理性を見直すことが重要です。意匠設計者と構造設計者が初期段階から知恵を出し合い、「どこに投資し、どこを合理化するか」を共有することこそが、プロジェクトを成功に導く真のVEだと言えます。
私たちアルキテックでは、計算に頼るだけの設計ではなく、施工性や力学の原理原則に立ち返った「真のバリューエンジニアリング」を追求しています。
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アルキテックでは、コストコントロールに課題を抱えるプロジェクトや、
意匠性を損なわない合理的な構造設計のご相談を承っております。









