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約20年ぶりの大改定!「木質構造設計規準・同解説(2026年版)」の重要ポイントを解説

木造建築を取り巻く環境は、ここ十数年で劇的な変化を遂げました。2010年の公共建築物等木材利用促進法を皮切りに、中大規模木造や非住宅への木材利用が急速に拡大。CLT(直交集成板)などの新材料が登場し、純木造での中高層建築も現実のものとなっています。

こうした時代の要請に応えるべく、日本建築学会の「木質構造設計規準・同解説」が2006年版以来、約20年ぶりとなる大改定を果たし、「2026年版」として発刊されることになりました。

今回の改定の最大の眼目は、「S造やRC造など、他構造に慣れた構造設計者にとっても直感的でわかりやすい『共通言語』での記述」と、「中大規模木造を許容応力度設計で安全に成立させるための高度な実務バイブルへの進化」です。

本記事では、長期間にわたる議論を経て結実した本規準の全6章について、実務設計者が知っておくべき改定の要点を網羅的に解説します。

1. 規準全体のスリム化と構造設計への特化

まず全体の構成として、旧版に存在した「第7章:建築物の保守」と「第8章:建築物の防耐火」が削除されました。

防耐火や耐久性については近年優れた専門書が多数出版されているため、本規準は純粋な「構造設計」に特化した全6章構成へとスリム化・先鋭化されています。

木質構造設計規準2026年版のイメージ表紙
実務に直結する構造設計バイブルとして全6章に再構築されました。

2. 【第1章・第2章】中大規模木造へのシフトと「塑性化・弾性要素」の明確化

第1章および第2章(構造計画および各部構造)は、本改定のフィロソフィーが最も色濃く反映された部分です。これまでの「小規模住宅メイン」の記述から、「中大規模木造」へと重心が大きくシフトしました。

① 脆性破壊を防ぐ「塑性化要素」と「弾性要素」の区分

大地震時のエネルギー吸収と建物の倒壊防止(靭性の確保)のため、部材や接合部を明確に以下の2つに分けて設計する原則が示されました。

  • 塑性化要素:地震時に変形を許容し、エネルギーを吸収して粘り強さを発揮する部分(例:接合具の曲げ降伏)。
  • 弾性要素:地震時においても弾性範囲に留め、木材の割裂やせん断といった致命的な「先行破壊(脆性破壊)」を防ぐべき部分

② 地震荷重・応力の「割増率(Rf1・Rf2)」の導入

許容応力度設計の枠組み(ルート1、ルート2)の中で中大規模木造の安全性を担保するため、新たな割増係数が新設されています。

  • Rf1(地震荷重割増率):塑性化要素の靭性が十分でない建物の設計において、地震荷重そのものを割り増す係数。
  • Rf2(地震時応力割増率):弾性要素(壊したくない接合部や部材)に対し、実際の地震時応力が計算値を上回る危険を考慮し、応力を割り増して検定するための係数。

なお、小規模建築物の壁量計算等の詳細な手順は大幅に削除され、「建築物の構造関係技術基準解説書」などに委ねる形ですっきりと整理されました。

3. 【第3章・第4章】解析モデルの充実と、明快な設計用特性値の算出

第3章(応力と変形の算定)と第4章(構造用材料および設計用特性値)は、設計者が計算機(解析プログラム)を回し、法規と照らし合わせる際の「翻訳機」としての役割が大幅に強化されました。

① 多様化する架構のモデル化手法の拡充

ラーメン構造の回転ばねや、多層構造のP-Δ効果、接合部の半剛接合やマルチスプリングモデルなど、現代の複雑な木質構造をどうモデル化すべきか、直感的に理解できる多数の図解が追加されました。また、木造特有の「燃えしろ設計」における残存断面の考え方も明記されています。

② 用語と許容応力度算出フローの整理

法規との用語のズレを解消し、以下の3ステップで迷わず数値を導き出せるよう整理されました。

  • 基準強度(F):材料固有のベース値(5%下限値など)。
  • 材料強度(mF):基準強度に、寸法効果・含水率・システム係数を掛けた値。
  • 許容応力度(f):材料強度に、安全係数や基準化係数、荷重継続期間影響係数を掛けた最終値。

特に、断面が大きくなるほど強度が低下する「寸法効果係数(KZ)」の導入(例:製材は標準せい150mmを超えると低減)や、積雪荷重における「荷重継続期間影響係数(多雪地域=3ヶ月、一般地域=3日)」の明確化は、実務において非常に重要です。

4. 【第5章】最新研究に基づく部材設計の合理化と是正

第5章(部材の設計)では、長年の慣習的な計算式が見直され、より合理的で実態に即したアップデートが行われました。

① 圧縮材の座屈計算の精緻化

従来の座屈低減係数を用いた計算に加え、JAS材などで設計用弾性係数(E0.05:5%下限値)が把握できている場合、それを直接代入して座屈強度を求める新式が追加されました。実際の材料特性を活かした、より有利で合理的な設計が可能になります。

② 振動障害(たわみ制限)の評価見直しとエラー修正

床梁の振動問題を検討する際、「人間自身の重量は振動質量から除外する」という実態に合わせた見直しが行われました。用途ごとに実質的な積載荷重の割合を示す係数(β)が設定され、よりリアルな評価が可能となっています。

また、材料ごとにバラバラだった横座屈の計算式を、新たな共通指標である「横座屈係数(Ck)」を用いた算定フローへと一本化。過去の規準から掲載されていた「方づえ付き柱の変角率α」の数値誤りも、今回ついに訂正されました。

5. 【第6章】設計ルートの簡略化と「靭性」を評価する接合部設計

最後の第6章(接合部の設計)は、木質構造の要(かなめ)である接合部に対する全面的なテコ入れが行われました。

① 計算過程の大幅な簡略化

これまで「単位接合部」と「接合部全体」の2段階で行っていた煩雑な検定が廃止され、接合部の許容せん断耐力を「直接」求めるシンプルな方式に変更されました。「基準許容応力度」の概念も削除され、実務設計での使いやすさが格段に向上しています。

② 接合部の粘り強さを示す「靭性係数」の新設

第2章のRf2と連動する形で、接合部の性能を評価する「靭性係数(JA・JB・JC等の種別)」が導入されました。これにより、その接合部が「脆性的に壊れるのか、粘り強く耐えるのか」を構造計算上で明確にコントロールできるようになります。

③ CLTやビスなど、現代の工法への対応

CLTなどの直交層を有する材料特有の「集合型せん断破壊」の計算方法が追加。また、従来の「木ねじ接合」という名称が「ビス接合」に変更され、現在広く普及している各種構造用ビスに適用しやすいよう規定が詳細化されました。

まとめ:これからの木質構造設計の「道標」として

今回の「木質構造設計規準・同解説」の改定は、過去の情報の単なるアップデートではありません。

S造やRC造の設計者にも開かれた「共通言語の採用」、脆性破壊を未然に防ぐ「塑性・弾性要素の区分と割増率の導入」、そして「接合部設計の抜本的な簡略化と靭性評価の明確化」。

これらはすべて、多様化し、大規模化していく現代の木造建築を安全かつ合理的に設計するための強力な武器となります。2026年版の規準は、これからの木造建築時代を牽引する極めて実践的な「道標」となるはずです。

木質構造・中大規模木造の構造設計はお任せください

アルキテック株式会社では、新しい「木質構造設計規準」に準拠した複雑な構造計算や、中大規模木造建築における高度な構造計画、さらにはS造・RC造・混構造など幅広い構造形式に対応しております。

「このプラン、木造で本当に成立するの?」「接合部の適切な設計方針を相談したい」といったお悩みがございましたら、構造設計の専門家である私たちにぜひご相談ください。

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